大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 昭和59年(行ウ)1号 判決 1993年5月25日

宮城県遠田郡田尻町沼部字横須賀前一一一番の一

原告

宮本晴幸

右訴訟代理人弁護士

小野寺照東

鹿又喜治

宮城県古川市幸町一丁目二番一号

被告

古川税務署長 長谷川仁

右指定代理人

中條隆二

阿部洋一

藤倉泰光

大沼長四郎

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告はいずれも昭和五六年一〇月三一日付けでした、原告の昭和五三年分所得税の更正及び過少加算税賦課決定(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの)、昭和五四年分所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定並びに昭和五五年分所得税更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、住所地で、ガソリンスタンド業及び土木工事業を営んでいるものである。

2  原告の昭和五三年分、昭和五四年分及び昭和五五年分の各所得税につき、原告がした確定申告、被告がした更正及び加算税賦課決定並びに右各処分に対して原告がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は、それぞれ別表第一の一ないし三のとおりである(以下、各年を総称して「係争各年」と、右各年分の更正(ただし、昭和五三年分及び昭和五五年分の各更正については、審査裁決により一部取り消された後のもの)を、順次、「五三年分更正」、「五四年分更正」、「五五年分更正」と、右各年分の加算税賦課決定(ただし、昭和五三年分及び昭和五五年分の各加算税賦課決定については、審査裁決により一部取り消された後のもの)を順次、「五三年分賦課決定」、「五四年分賦課決定」、「五五年分賦課決定」と、五三年分更正、五四年分更正及び五五年分更正を総称して、「本件各更正」と、五三年分賦課決定、五四年分賦課決定及び五五年分賦課決定を総称して「本件各賦課決定」という。)。

3  原告は、本件各更正及び本件各賦課決定に不服があるので、その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の事実は認める。

三  抗弁

1  本件調査等の経緯について

(一) 被告は、ガソリンスタンド業及び土木工事業を営む原告の係争各年分の所得税について、<1>係争各年分の確定申告書に、事業所得に係る収入金額及び必要経費の内容を記載した書類の添付がないため、事業所得の金額の計算内容が不明確であったこと、<2>確定申告書に記載された事業所得の収入金額は、昭和五三年分が六七五〇万六〇〇〇円、昭和五四年分が九九七四万一〇〇〇円、昭和五五年分が一億一一七二万二三三一円と大幅に増加しているが、所得金額は昭和五三年分が一二六万一一〇〇円、昭和五四年分が一三〇万一〇〇〇円、昭和五五年分が一四二万八二一一円となっており、収入金額の伸び及び原告の事業規模からして、所得金額が低調と認められたこと、<3>資産取得(土地及び自宅新築)の資金源について検討する必要があったこと、<4>原告の所得税について、長期間(開業以来)調査が行われていないことから、調査の必要があると判断した。

(二) 昭和五六年五月二五日、仙台国税局から被告所部職員に併任発令(併任期間は同日から同月三〇日まで)された大城実査官は、原告に対する所得税調査のために、事前の連絡をしないで、午後〇時五〇分ころ、原告の店舗に臨場し、原告の従業員小笠原米子に対し右臨場目的を告げて原告への取次を依頼したが、原告は不在であり、小笠原からは、原告は行先を告げずに出かけ、いつ帰るかも分からない旨回答があった。そこで、大城実査官は、原告の自宅に赴き、原告の長女晴津子に対し、原告の所得税の調査のため臨場したこと及び翌日午前九時半ころ再臨場したい旨の原告への伝言を依頼し、その後原告の店舗に戻り、原告の帰りを待ちながら事業内容について小笠原に質問したが、具体的な回答を得られなかったので、しばらく外で原告の帰りを待ったうえ、午後二時五〇分ころ原告の店舗から退去した。

(三) 同月二六日午前九時四〇分ころ、大城実査官は、原告の店舗に臨場し、晴津子及び小笠原に対し原告の所得調査のために再臨場した旨告げたところ、晴津子から「今日も税務署が調査に来ると昨夜父に伝えたが、今日は仙台の方に出かけた。」旨の話があり、原告に面接できなかった。そこで、大城実査官は、しばらく原告の帰りを待ったが、原告が帰宅しなかったので、晴津子に対し再度臨場する旨の原告への伝言を依頼し、午前一一時一〇分ころ原告の店舗から退去した。

(四) 同日午後二時ころ、大城実査官は、原告の店舗に臨場したが、原告不在であったので、晴津子及び小笠原に対し翌日原告の所得税調査に臨場する旨の原告への伝言を依頼し、原告の店舗から退去した。その後、同日午後四時ころ、晴津子から大城実査官に電話があり「父から今忙しいので、来月にしてほしいとの連絡があった。」旨話があつたので、大城実査官は、「皆さん忙しい中で調査に協力していだいている。翌日午前九時半ころ調査に臨場することを原告に伝言してもらいたい。」旨回答した。

(五) 同月二七日午前九時半ころ、大城実査官は原告の店舗に臨場したが、原告が不在であったので、晴津子及び小笠原に対し所得税調査に協力してもらいたとの原告への伝言を依頼し、原告の店舗から退去した。

(六) 同日、大城実査官は、四回にわたる原告の店舗への臨場にもかかわらず原告に面接して調査を行うことができなかったので、やむを得ず原告の預貯金について調査を実施するため、振興相互銀行田尻支店(当時)に臨場した。大城実査官が銀行調査中の午後四時ころ、原告から電話があり、「黙って銀行調査ができるのか、今忙しいので、来月にしてもらいたい。」旨の話しがあったので、大城実査官は、「皆さんには忙しい中で調査に協力してもらっている。四回にわたる臨場にもかかわらず会えなかったので、銀行調査を実施したものであり、本人の了承を得なくとも銀行調査はできる。」旨回答した。

(七) 同月二八日午後四時ころ、大城実査官は、原告方に電話したが、原告不在であったので、応答した原告の妻に対し、六月二日に原告の所得調査に臨場することを原告に伝言するよう依頼し、了承を得た。

(八) 同年六月二日午前一〇時ころ、被告所部職員である安達統括国税調査官(以下「安達統括官」という。)及び及川上席国税調査官が原告の店舗に臨場したところ、原告及び民商会員らしき者二名が待機していた。そして、安達統括官らが原告に対し調査に対する協力を要請したところ、原告らは、大城実査官の調査を非難する一方的な発言をし、同実査官が原告方で原告に謝罪するよう要求するのみで、調査に対する協力を全くしなかったことから、安達統括官らはこの日の調査を断念し、午前一〇時三〇分ころ原告の店舗から退去した。

(九) 同月九日午前一〇時ころ、安達統括官及び被告所部職員である千葉上席国税調査官(以下「千葉上席」という。)が事前連絡のうえ原告の店舗に臨場したところ、原告及び民商会員らしき者二名が待機していた。そして、安達統括官らが原告に対し調査に対する協力を要請したところ、原告らは、前回の臨場時と同様に大城実査官の調査を非難する一方的な発言をし、同実査官が原告方で原告に謝罪するよう要求するのみで、調査に対する協力を全くしなかったことから、安達統括官らはこの日の調査を断念し、午前一〇時五〇分ころ原告の店舗から退去した。

(一〇) その後、千葉上席は、原告に対し再三にわたり電話をし、調査に対する協力を要請したが、原告は、大城実査官の調査に対する非難を繰り返すのみで調査に応じようとはしなかった。そこで、千葉上席は、このままでは調査日が決まらないが立会人のいないところで原告と話すことにより調査の進展が図れるのではないかと考え、同年七月一五日午前一〇時三〇分ころ、事前に連絡をしないで、原告の店舗に臨場し、原告に対し調査に対する協力を要請した。しかし、原告は、「調査の立会人がいなければ、調査に応じられない。」と発言するのみで、調査に全く応じようとしなかったので、千葉上席は、この日の調査を断念し、午前一〇時五〇分ころ原告の店舗から退去した。

(一一) 同月二四日午前九時三〇分ころ、千葉上席が事前連絡のうえ原告の店舗に臨場したところ、原告及び民商会員二名が待機していた。原告らは、千葉上席の調査に対する協力要請に対し、調査理由の開示を要求したので、千葉上席は、「収入金額に比較して所得金額が低調と認められること。事業所得の金額の計算内容を確認したいこと。」と説明を行い、係争各年分の事業所得の金額の内容を帳簿書類等を提示のうえ説明するよう要請した。しかし、原告は、「今日は準備ができていないから、七月二九日にもう一度来てくれ。」というのみで、調査には全く協力しなかったことから、千葉上席は、この日の調査を断念し、午前一〇時一〇分ころ原告の店舗から退去した。

(一二) 同月二九日午前九時五〇分ころ、千葉上席が原告の店舗に臨場したところ、原告及び民商会員二名が待機していた。千葉上席は、原告に対し、調査に対する協力と係争各年分の帳簿書類等の提示を要請したが、原告は、白色申告であるから帳簿書類等の提示は必要ないとして、民商会員が原告の昭和五五年分申告に係る収入金額、仕入金額、経費のそれぞれについては科目ごとにその合計金額を読み上げたのみであった。また、千葉上席は、ガソリンの仕入及びガソリンスタンド業の減価償却費関係について質問したが、原告は、「まだ中身を調べていないので、次回にしてもらいたい。」旨述べるだけであったので、千葉上席は、このような状態ではこの日の調査の進展は望めないと判断し、午前一一時三〇分ころ原告の店舗から退去した。

(一三) 同年八月二五日午前一〇時ころ、千葉上席が事前連絡のうえ原告の店舗に臨場したところ、原告及び民商会員二名が待機していた。千葉上席は、原告に対し、調査に対する協力と係争各年分の帳簿書類等の提示を要請したが、原告は、鈴与株式会社からのガソリンの昭和五五年分の仕入金額、ガソリンスタンド業に減価償却資産のみの取得年月日及び取得価額を民商会員に読み上げさせ、また、「鈴与以外からの仕入は分からない。」などと述べたので、千葉上席は、このような状態ではこの日の調査の進展は望めないと判断し、午前一一時三〇分ころ原告の店舗から退去した。

(一四) 同年九月八日午前九時四五分ころ、千葉上席が事前連絡のうえ原告の店舗に臨場したところ、原告からの自宅に案内されたところ、そこに民商会員二名が待機していた。千葉上席は、原告に対し、土木工事業の減価償却及び売上の内容、ガソリンスタンド業のガソリン以外の仕入等について質問したところ、原告は、「土木工事の売上は、どんぶり勘定でわからないので、田尻町の佐々木組を調べてもらいたい。

一、「人件費は、田尻町役場で調べてもらいたい。」旨申し立てるのみであったので、千葉上席は、このような状態ではこの日の調査の進展は望めないと判断し、次回の調査日を九月一八日と決めて、午前一一時三〇分ころ原告方から退去した。

(一五) 同月一八日午前一〇時ころ、千葉上席が原告方に臨場したところ、原告及び民商会員二名が待機していた。千葉上席は、原告に対し、調査に対する協力と係争各年分の帳簿書類等の提示を要請したが、原告は、昭和五五年分について、ガソリンスタンド業の仕入先ごとに仕入金額(ただし、その合計金額は、七月二九日読み上げの金額より約四〇〇万円少ないものであった。)、土木工事業の減価償却資産の取得年月日及び取得価額、小笠原に対する人件費の内容を民商会員に読み上げさせ、また、小笠原の人件費のメモの提示と土木工事業の雇人費明細書の写し(甲大五〇号証の一と同一内容のもの)を提出したのみであったので、千葉上席は、このような状態ではこれ以上の調査の進展は望めないと判断して、午前一一時三〇分ころ原告方から退去した。

(一六) 以上のような状況では、原告の係争各年分の所得金額を帳簿書類等に基づいた収支実額により計算することは不可能であると判断されたので、千葉上席は、原告の取引先の反面調査等を実施し、その結果に基づき原告の係争各年分の所得金額を推計により算定したところ、原告の申告額はいずれも過少であると認められたため、同年一〇月三一日、被告は、本件各更正及び本件各賦課決定を行った。

2 本件各更正の根拠及び適法性について

(一)  右のとおり、原告は本件調査に協力しなかったため、被告は、原告の係争各年分の事業所得の金額を実額により計算することができなかった。そこで、被告は、やむを得ず同業者を用いて推計により係争各年分の原告の事業所得を算出し、本件各更正を行った。

(二)  本件各更正に係る係争各年度の原告の総所得金額は、次のとおりである。

(1) 昭和五三年分 二六五万一六〇五円

(2) 昭和五四年分 六九七万九三一四円

(3) 昭和五五年分 四二四万二七三四円

(三)  ガソリンスタンド業の算出所得金額の計算について

(1) 売上原価の額

売上原価の額は、本来、年中の仕入金額に年初の棚卸高を加え、年末の棚卸高を差し引いて計算すべきところ、本件においては、原告から係争各年分の棚卸高を算定するに足りる資料の提出が得られず、また、他にこれを認定できる資料もないことから、係争各年分の年初、年末の棚卸高をそれぞれ同額とみなして算出した。

したがって、原告の係争各年分の売上原価の額は、原告の取引先調査等によって把握した別表第二に掲記する仕入金額と同額の昭和五三年分が五六七二万〇七三四円、昭和五四年分が七七九五万〇八三〇円、昭和五五年分が八三二四万六四一七円となる。

(2) 売上金額

売上金額は、右の売上原価の額を原告と事業内容及び事業規模等が類似すると認められる同業者(以下「同業者」という。)の売上原価率(売上原価の額を売上金額で除した割合をいう。以下同じ。)の平均値(以下「平均売上原価率」といい、別表第三の一ないし三の「平均売上原価率」欄の数値を指す。)で除して算出した。

したがって、原告の係争各年分の売上金額は、別表第四のとおり、昭和五三年分が六六二四万七〇六一円、昭和五四年分が九三〇五万三三九六円、昭和五五年分が九六八五万四四七〇円となる。

(3) 算出所得金額

算出所得金額(売上金額から、売上原価の額と経費の額のうち個別性の強い「支払利子・割引料」・「貸倒金」を除いたものとの合計額を差し引いた後の金額をいう。以下同じ。)は、右の売上金額に同業者の算出所得率(算出所得金額を売上金額で除した割合をいう。以下同じ。)の平均値(以下「平均算出所得率」といい、別表第三の一ないし三の「平均算出率」欄の数値を指す。)を乗じて算出した。

したがって、原告の係争各年分の所得金額は、別表第四のとおり、昭和五三年分が三〇四万〇七四〇円、昭和五四年分が六九七万九〇〇四円、昭和五五年分が五五三万〇三九〇円となる。

(四)  土木工事業の算出所得金額の計算について

(1) 雇人費の額

ア 原告は、ガソリンスタンド業と併せて暗渠・排水工事等を主体とする農業関係土木工事業をも営む者であるが、土木工事業についてもその事業内容や所得計算に必要な帳簿書類等を提示せず、ただ昭和五五年分に係る雇人費明細書の写しを提出しただけであった。そこで、被告は、原告が提出した右昭和五五年分の雇人費明細書によって、昭和五五年分の雇人費の額は四九七万七二八五円であることを把握した。

しかし、昭和五三年分及び昭和五四年分の雇人費の額については、雇人費を把握できる資料を得ることができなかった。

イ ところで、原告の主たる受注先である株式会社佐々木組から昭和五三年一月から昭和五五年一二月までの工事収入金額及び昭和五五年分に係る原告の雇人費の月別内訳は、別表第五のとおりであるが、昭和五五年分の原告たる主たる工事期間(同年一月から三月まで及び同年一〇月から一二月までの期間をいう。本件のような暗渠・排水工事等農業関係の土木工事は、農閑期を利用して行われることから、主たる工事期間は、おおむね一月から三月及び一〇月から一二月までを指しているものである。)の雇人費の額は、三九〇万三九六〇円であり、同年の雇人費の総額に占める割合は、七八・四四パーセントになる。同じく同年の主たる工事期間分の佐々木組からの工事収入金額は、九〇三万七九三五円であり、同年の佐々木組からの工事収入金総額に占める割合は、七八・一九パーセントとなる。そして、右の事実からすると、原告の雇人費の額は、佐々木組からの工事収入金額の多寡に応じて増減しているものと認められた。

ウ そこで、まず、佐々木組からの昭和五五年分の工事収入金額に対する同社からの昭和五三年分及び昭和五四年分の工事収入金額の割合を求め、次に、昭和五五年分の雇人費の額に右割合を乗じて別表第六のとおり昭和五三年分及び昭和五四年分の雇人費の額を計算した。

(2) 売上金額

売上金額は、右の雇人費の額を同業者の雇人費率(雇人費の額を売上金額で除した割合をいう。以下同じ。)の平均値(以下「平均雇人費率」といい、別表第七の一ないし三の「平均雇人費率」欄の数値を指す。)で除して算出した。

したがって、原告の係争各年分の売上金額は、別表第八のとおり、昭和五三年分が二四七万五六〇円、昭和五四年分が一六八五万九七七三円、昭和五五年分が一七六九万一二九六円となる。

(3) 算出所得金額

算出所得金額は、前記1の売上金額に同業者の平均算出所得率(別表第七の一ないし三の「平均算出所得率」欄の数値を指す。)を乗じて算出した。

したがって、原告の係争各年分の算出所得金額は、別表第八のとおり、昭和五三年分が二八万一六四三円、昭和五四年分が一六一万五一六六円、昭和五五年分が一九〇万六〇四三円となる。

(五)  支払利子・割引料及び貸倒金

被告は、原告の経費の額のうち個別性の強い支払利子・割引料及び貸倒れ金を実額で把握し、これらの金額を右三3及び四3で計算した算出所得金額の合計額から差し引いて事業専従者控除額控除前の事業所得の金額を計算した。

(1) 支払利子・割引料

原告が振興相互銀行田尻支店に支払った借入金利子のうち必要経費として認められるのは、別表第九のとおり、昭和五十三年分が零円、昭和五四年分が九万〇四二九円及び昭和五五年分が五六万八九〇〇円である。

なお、原告が昭和四九年八月三一日に振興相互銀行田尻支店から借り入れた三二〇万円は、原告の自宅の土地の取得資金に使用されたものであるから、これに係る借入金利子は事業遂行上生じた費用に当たらない。

(2) 貸倒金

原告が昭和五五年二月二五日に放棄した株式会社戸田工務店に対する債権一八二万〇三四一円を同年分の貸倒金として事業所得の金額の計算上必要経費と認めた。

(六)  事業専従者控除額

係争各年分において、原告の妻幸子が所得税法五七条三項に規定する事業専従者と認められたので、右各年分について事業専従者控除額控除前の事業所得の金額から事業専従者控除額四〇万円を差し引いて事業所得の金額を計算した。

(七)  事業所得の金額

以上のようにして、被告は、原告の係争各年分の事業所得の金額を、昭和五三年分が二九二万二三八三円、昭和五四年分が八一〇万三七四一円及び昭和五五年分が四六四万七一九二円とそれぞれ計算した。その計算過程は、別表第一〇のとおりである。

(八)  以上のとおり、本件各更正に係る総所得金額は、それぞれ、原告の昭和五三年分、昭和五四年分及び昭和五五年分の各総所得金額の範囲内であるから、本件各更正はいずれも適法である。

3 本件各賦課決定の根拠及び適法性について

本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、各更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、昭和五九年法律第五号による改正前の国税通則法六五条二項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条一項の規定に基づいて、過少申告加算税を賦課した本件各賦課決定は適法である。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1(本件調査等の経緯)(一)は不知。

(二)  同(二)のうち、昭和五六年五月二五日、大城実査官が事前の連絡をしないで原告の店舗に臨場したが、原告は不在であったこと、大城実査官は、晴津子及び小笠原に対して事業内容等について質問したが、具体的な回答を得られなかったこと、そこで、晴津子に対し翌日再臨場したい旨の伝言を依頼して退去したことは認め、その余は否認する。

(三)  同(三)のうち、同月二六日午前一〇時前ころ、大城実査官が原告の店舗に臨場したが、原告は不在であったこと、そこで、大城実査官はじはらく店舗にいた後、昼少し前に退去したことは認め、その余は否認する。

(四)  同(四)のうち、同日午後、大城実査官が原告の店舗に臨場したが、原告は不在であったが、退去したこと、その後、晴津子から大城実査官に電話をし、「今忙しいので来月にしてほしい。」旨原告の伝言を伝えたが、大城実査官はこれに応じなかったことは認め、その余は否認する。

大城実査官は、小笠原が、客商売だから大城実査官がいると商売にも差障りがあること、原告の都合を聞いて都合のよい日を連絡することを伝えたところ、ようやく退去したものである。そして、原告が晴津子を通じて来月初めにしてほしい旨連絡したのに対し、大城実査官は、「そうはいかない。こちらも仕事だ。」と述べ、原告の都合を無視する態度であった。

(五)  同(五)のうち、同月二七日午前九時半ころ、大城実査官が原告の店舗に臨場したが、原告が不在であったので、退去したことは認め、その余は否認する。

大城実査官は、小笠原が原告が集金のため不在であることを説明したのに、「今日来ると言ったのだ。こちらにも都合がある。」と言って店に居座り、重機の購入時期、価格等を訪ねていた。そこで、小笠原が「とにかくわからないし、仕事の邪魔になるので帰ってほしい。」と述べたところ、大城実査官は、「逃げ隠れしてもだめだ。逃げ隠れするなら徹底的に調べる。」と言い残して午前一一時半ころようやく帰った。

(六)  同(六)のうち、同日、大城実査官が振興相互銀行田尻支店に臨場し、原告の預貯金について調査したこと、原告が振興相互銀行に抗議の電話をしたところ、大城実査官が「銀行調査はできる。」旨回答をしたことは認め、その余は否認する。

大城実査官は、原告の預金のみならず、原告の妻の姪にあたる鎌田直子の預金まで調べていた。午後三時ころ、原告がたまたまのことを知って右銀行の次長に電話で抗議したところ、電話口に代わって出た大城実査官は、「こちらはこちらなりの仕事がある。調べる権限がある。」と強硬な態度であった。

(七)  同(七)のうち、大城実査官と原告が六月二日に原告方に臨場することで合意したことは認め、その余は否認する。

大城実査官が原告の留守中何度も臨場し、無断で銀行調査までしているので、とにかく大城実査官と面談する必要があると考え、原告から古川税務署に「六月二日なら都合がいい。」旨電話して時間を決めたものである。

(八)  同(八)のうち、同年六月二日午前一〇時ころ、安達統括官及び及川上席国税調査官が原告の店舗に臨場したところ、原告及び民商会員二名が待機していたこと、原告らが大城実査官の調査について抗議し、同実査官が原告方で原告に謝罪することを要求したことは認め、その余は否認する。

原告らが安達統括官に対し、調査するなら調査の前にまず大城実査官を連れてきて陳謝してもらいたい旨要望したところ、安達統括官がこれを了承したので、次回は、同月九日午前一〇時に大城実査官を同行してもらうことにして話合いが終わった。そして、帰り際に安達統括官が同席していた古川民主商工会長佐藤斗亮(以下「佐藤会長」という。)に対し、「この問題をこじらせないため正しく解決するよう協力してほしい。」と述べたので、佐藤会長は「それはこちらも望むところです。」と答え、調査に協力する意のあるところを示したものである。

(九)  同(九)のうち、同月九日午前一〇時ころ、安達統括官及び千葉上席が原告の店舗に臨場したこと、安達統括官らが原告に対し調査に対する協力を要請したことは認め、その余は否認する。

前回同行を約束していた大城実査官が来なかったので、佐藤会長が「なぜ大城実査官が来ないのか。」と尋ねたところ、千葉上席が「大城実査官は実は古川税務署の署員ではなく併任で、五月いっぱいで仙台に帰ってしまったので連れてこれない。」と言い、安達統括官も「今後は千葉上席を担当するので調査に協力してほしい。」と要請するので、原告らもこれ以上追及しても仕方がないと考え、「それでは大城実査官の問題は留保し、今後の調査には応じましょう。」と答え、次回は同月一五日に来てもらうことにしたものである。

(一〇)  同一〇のうち、同年七月一五日午前一〇時半ころ、千葉上席が原告の店舗に臨場したこと、原告が調査に応じなかったので、退去したことは認め、その余は否認する。

原告が調査に応じなかったのは、原告が急用ができたためであり、原告は千葉上席に対しその旨謝って帰ってもらった。そして、次回の調査については、その後、佐藤会長の日程も聞き、同月二四日と決め、それを千葉上席に連絡して了解を得た。

(一一)  同(一一)のうち、同月二四日午前九時半ころ、千葉上席が事前連絡の上原告の店舗に臨場したところ、原告及び民商会員二名が待機していたこと、原告らが調査理由の開示を要求したこと、原告が同月二九日に来てくれと言ったことは認め、その余は否認する。

佐藤会長が千葉上席に対し、調査の理由を訪ねたところ、千葉上席の答えが「調べてみないとわからない。」というあいまいなものだったので、佐藤会長が「調べてみないとわからないとは理由にならないのではないか。申告をしているのだから申告のどこに疑問があるのか聞きたいので説明してほしい。」の述べたが、千葉上席はこれに対してもはっきり答えなかった。そうすると、千葉上席が調査の理由も説明せず「昭和五五年分の経費の内訳、仕入先ごとの仕入額の明細を教えてほしい。」というので、原告は次回まで準備することを約し、次回は同月二九日に来てもらうことにしたものである。

(一二)  同(一二)のうち、同月二九日午前九時五〇分ころ、千葉上席が原告の店舗に臨場したところ、原告及び民商会員二名が待機していたこと、千葉上席が昭和五五年分の明細を求めたのに対し、原告は白色申告であるから帳簿書類等の提示は必要ないとして、民商会員が原告の昭和五五年分申告に係る収入金額、仕入金額、経費それぞれについて科目ごとにその合計金額を読み上げたが、減価償却資産の関係は読み上げなかったこと、減価償却関係は次回にしてほしい旨述べたことは認め、その余は否認する。

佐藤会長が「白色申告で帳簿を開示する必要はないはずだから読み上げるだけにする。」と言ったところ、千葉上席もこれを了解したので、佐藤会長が昭和五五年分申告に係る売上・仕入・人件費その他必要経費等について科目ごとにその合計金額を読み上げ、千葉上席にそれを書き取ってもらったものである。

(一三)  同(一三)のうち、同年八月二五日午前一〇時ころ、千葉上席が原告の店舗に臨場したところ、原告及び民商会員が待機していたこと、民商会員が昭和五五年分のガソリンスタンド関係の減価償却表を読み上げたことは認め、その余は否認する。

佐藤会長が一部明細の不明だつた土木工事業関係は読み上げなかったところ、千葉上席が「どうせ赤字なのだから土木工事業も全部出した方がよい。」というので、原告は、次回までに不明な点が調べた上減価償却内訳を出すことにし、次回の調査日を決めたものである。

(一四)  同(一四)のうち、同年九月五日午前九時四五分ころ、千葉上席が原告に案内され原告の自宅に来たところ、民商会員が待機していたこと、次回の調査日を同月一八日と決めて午前一一時半ころ千葉上席が原告宅から退去したことは認め、その余は否認する。

佐藤会長が昭和五五年分の土木工事関係の減価償却内訳と仕入関係内訳を具体的に読み上げ、千葉上席に書き取ってもらった。しかし、人件費関係の明細については準備不足だったので、次回に調査してもらうことにした。

(一五)  同(一五)五のうち、同月一八日午前一〇時ころ、千葉上席が原告方に臨場したところ、原告及び民商会員が待機していたこと、原告らが昭和五五年分の仕入金額、減価償却費及び人件費につき説明をしたこと、千葉上席が午前一一時半ころ原告方から退去したことは認め、その余は否認する。

千葉上席は、原告らの説明を書き取ったうえで、「後に署に帰ってから検討します。」と述べて帰ったものである。

(一六)  同(一六)のうち、同年一〇月三一日、本件各更正及び本件各賦課決定の通知があったことは認め、その余は否認する。

被告は、昭和五五年分について調査しただけで、昭和五三年分及び昭和五四年分について調査を求めたことはないし、現に調査しようとしなかったものである。

2(一)  抗弁2(本件各更正の根拠及び適法性)(一)のうち、被告が同業者率を用いて推計により係争各年分の原告の事業所得を算出し、本件各更正を行ったことは認め、その余は否認する。

(二)  同(二)(係争各年分の原告の総所得金額)は争う。

(三)  同(三)(ガソリンスタンド業の算出所得金額の計算)は争う。

(四)  同(四)(土木工事業の算出所得金額の計算)は争う。

(五)  同(五)(支払利子・割引料及び貸倒金)のうち、戸田工務店に対する債権一八二万三四一円が貸倒金であることは認め、その余は争う。

(六)  同(六)(事業専従者控除額)のうち、係争各年分において原告の妻宮本幸子が所得税法五七条三項に規定する事業専従者に該当することは認める。

(七)  同(七)(事業所得の金額)は争う。

(八)  同(八)は争う。

3  抗弁3(本件各賦課決定の根拠及び適法性)は争う。

五  原告の主張

1  本件各更正処分の違法について

(一) 手続的違法

(1) 所得税法二三四条一項の質問検査は、任意調査であって、被調査の協力を得て行うものであるし、また、突然の調査は相手方に迷惑をかけるから、原則として事前通知することは当然のことである。また、質問検査の対象者には家族や従業員は含まれない。

ところが、大城実査官が調査のため原告方を訪れた日のうち、昭和五六年五月二五日、二六日及び二七日は、いずれも事前連絡がなく、原告が集金のために留守にしているところに突然訪れて、しかも、従業員が迷惑がっているのに、原告の営業や資産に関し調査質問をしたものである。

右のように、事前通知の原則を無視し、原告の留守中に突然訪れて、しかも、質問検査の対象者でない従業員に対し調査協力を求める行為は、原告の調査非協力を問題とするまでもなく、調査権限の違法な行使といわざるを得ない。

(2) 反面調査が許されるのは、納税者本人を調査してみたが、その調査だけでは課税標準及び税額及び税額等の内容が把握できない場合に限られている。

しかるに、大城実査官は、昭和五六年五月二七日、原告に対し一度も調査のため面接していないばかりか、六月二日に調査に応じることで双方に合意が成立しているにもかかわらず、振興相互銀行田尻支店に赴き反面調査を行っており、これは明らかに違法な調査権限の行使である。

(3) 税務調査において調査の合理的理由ないし必要性の具備が適法要件であることは明らかであり、質問検査権が公権力の行使であることにかんがみると、被調査者の要求があれば、調査を行う税務職員は、税務調査の理由を開示すべきであり、調査理由の開示がない場合には、被調査者は、その調査を拒み得ると解すべきである。

にもかかわらず、千葉上席は、昭和五六年七月二四日、原告が調査理由の開示を求めたのに対し、調査理由を開示しなかったのであり、そのため、原告は調査に応じなかったのであって、これをもって調査に対する非協力とすることはできない。

(二) 推計の違法

(1) 推計の必要性の欠如

ア 所得税は、申告納税が原則であり、また、課税標準となる所得金額の算定は実額を計算して決定するのが原則である。したがって、推計により所得金額を認定して課税することは、<1>帳簿書類を備え付けておらず、収入・支出の状況を直接資料によって明らかにすることのできない場合、<2>帳簿書類を備えつけてはいるが、誤記・脱漏が多いとか二重帳簿が作成されているなど、その記載内容が不正確で信用性に乏しい場合、<3>納税者又はその取引関係者が調査に協力しないため直接資料が入手できない場合など、例外的としてやむを得ない場合にのみ許されるものである。

イ ところが、原告は本件調査に対し、非協力的であったりしたことはなかったのであるから、被告において十分に調査を行えば実態の把握ができ、推計により原告の事業所得の金額を算出する必要性は全くなかったはずである。

すなわち、大城実査官は別として、本件調査を担当した千葉上席の場合は、その第一回目の調査日である昭和五六年六月二日から第八回目である同年九月一八日までの調査の全過程を通じてなごやかに、双方の都合を調整し合った上での調査が行われ、原告もこれに調査してきたのである。そして、千葉上席は、同年九月一八日には、原告から事情を聞き終え、次回調査を予定することなく、調査を終了させているのであり、原告が調査に協力したことは明らかである。

また、昭和五五年分の調査については、その過程の中で原告が調査を許否したことがあったことには一のとおり合理的な理由があったから調査非協力とはいえないし、昭和五三年分及び昭和五四年分については、被告が調査をしなかったのであるから、原告も協力する必要がなかったのである。

ウ したがって、本件各更正は、推計課税の要件が存しないのになされたものであるから、違法な処分として取り消されるべきである。

(2) 推計の合理性の欠如

ア 一般に推計課税が合理性を有するためには、<1>推計の基礎事実の捕捉が確実であること(推計基礎事実の確実性)、<2>推計に使用する基礎数値の算定が正確であること(推計の基礎数値算定の正確性)、<3>推計結果の妥当性(効率法、比率法等による推計の場合における特殊事情の考慮はこの結果の妥当性を保障するものである)の三つの条件を充足されることが必要であり、この条件を欠くときは推計の合理性が否定されることになる。

そして、同業者比率法による推計にあたっては、<1>同業者をどのような方法・基準で選択したか(同業者抽出の合理性)、<2>同業者はどの点でどの程度類似しているか(同業者類似性の確保)、<3>比準同業者の実績の捕捉が正確であり、比率の算定過程が合理的であるか(同業者率算定の正確性)、<4>その同業者率を納税者に適用し具体的に所得金額を推定することが妥当かどうかが明らかにされることが必要である。

しかし、本件推計課税においては、以下のとおり、右<1>ないし<4>の点に問題があり、合理性がないというべきである。

イ 同業者選定の不明確性と非合理性

a 通達回答方式の不明確性

本件において、被告は、いわゆる通達回答方式によって類似同業者の選定を行うものであるが、通達回答方式は、同業者の住所・氏名を開示しない資料で同業者率の合理性を立証しようとするものであって、被告主張の同業者の存在並びにその営業規模、内容及び立地条件等原告の営業との類似性について、原告において反証を提出することを不可能にするものであり、当事者衡平の見地、訴訟における信義則からして許されるべきではない。被告の選定した同業者が原告に類似する業者といえるか不明確な以上、これを前提に同業者率を算定しても、本件推計の合理性は全く担保されないというべきである。

被告は、被告の選定した業者の青色申告決算書を提出することができるのであり、仮にその具体的氏名を明らかにすることができないとしても、その具体的内容を提出することは容易であり、これが明らかになれば、原告の営業との類似性の検討も可能となるのである。しかるに、このように重要で容易に提出できる資料を提出しないで推計課税を維持しようとすることは、証拠の信用性を疑わしめるのみならず、デュープロセスにも反するものである。

b 土木事業に関する同業者選定

被告の土木事業に関する同業者の選定は、自ら規定した基準を満たさず、かつ、恣意的に選定を行ったものとの疑念を生じさせるものであって、これらの同業者をもって、原告の所得を推計することは不合理である。

すなわち、被告は、土木業者に関する同業者の選定にあたって、その条件の一つとして倍半基準を示しているが、昭和五三年分の推計にあたり選定された同業者はこの基準を満たしていない。

また、被告は、同業者の抽出については通達の各条件を満たす者の全てを機械的にもれなく抽出しており、そこに恣意が介在する余地はないというが、原処分庁の選定した同業者と、国税不服審判所において選定した同業者と、本訴において被告が選定した同業者とは異なっているのであって、その理由はなんら明らかにされていない。

更に、被告は、本訴に至って、雇人率及び算定所得率についての主張を変更しているが、これらの数値は推計課税の合理性を主張する被告の重要な根拠であって、これらの変更が許されないことは明らかであり、仮に許されるとしても変更の合理的理由が明らかにされなければならない。

ウ 土木工事収入及び算定所得の推計の非合理性

被告は、「雇人費の額が佐々木組からの工事収入金額の多寡に応じて増減する」との仮定をもとに、昭和五三年分及び昭和五四年分の雇人費を推計した上で、この雇人費の額を基礎として「同程度の雇人費の額に対しては同程度の工事収入を得る」との仮定をもとに工事収入金額を推計し、さらに同業者比率による所得の推計を行っている。しかしながら、これらの仮定はいずれも合理性を有しないものである。

a 被告は、昭和五五年一月から三月まで及び同年一〇月から一二月までの期間を原告の主たる工事期間とし、この間の雇人費の額が同年の雇人費の総額に占める割合が七八・四四パーセントであるのに対し、この間の佐々木組からの工事収入の額が同年の佐々木組からの工事収入の総額に占める割合が七八・一九パーセントであってその割合が近似していることをもって「雇人費の額が佐々木組からの工事収入金額の多寡に応じて増減する」という。

しかしながら、原告の主たる工事期間を一月ないし三月及び一〇月ないし一二月とする合理的理由はない。かえって、工事収入の額の多い順に六か月を選定すると一月ないし五月及び一二月となるが、この間の雇人費の額が同年の雇人費の総額に占める割合は六六・六一パーセントであるのに対し、この間の佐々木組からの工事収入の額が同年の佐々木組からの工事収入の総額に占める割合は、九四・五二パーセントであって、被告の仮定は妥当しない。

b 土木業者においては、元請けか、その中間かなどその業者のおかれた立場によってその営業実態に大きな差異があるのが通例であり、「同程度の雇人費の額に対しては同程度の工事収入を得る」とはいえない。

すなわち、被告の選定した同業者をみても、雇人費額に対する工事収入金額の割合を比較してみると、同業者間でその差は三倍近くにも昇るし、同一の業者であっても年によって、一割近くの差異が生じている。

c また、工事収入金額に対する所得率について、被告の選定した同業者をみると、同一の業者であっても年によって二倍近い差異が生じている。

エ 特殊事情を無視した推計の非合理性

a 営業形態における特殊事情

同業者の間でも、立地条件、店舗面積、従業員数、取扱品目、営業経験や営業形態によってその所得には大きな差異が生ずることがしばしば存在するにもかかわらず、被告は、本件推計課税にあたって、原告に類似同業者と比して、かかる特殊事情が存在しないことについてなんら主張・立証していない。

昭和五三年から昭和五五年当時は、原告は土木工事を開始して間もない頃であり、重機を扱う専門のオペーレーターがいないため作業効率が悪かったこと、現場に必要な測量士と施工管理士を佐々木組から出してもらっていたため、通常の場合により三割五分程度請負代金値引きして、工事を行わざるをえなかったこと等の特殊事情が存在したにもかかわらず、本件推計はこうした特殊事情をなんら考慮していない。

b 経費にかかる特殊事情

個別性の強い経費としては、被告の主張する支払利子・割引料及び貸倒金以外に、人件費、外注費、減価償却費等が存在し、これらの経費は個別事情によって大きく差異があるのが通例であるにもかかわらず、本件推計は、これらをまとめて推計しており、妥当性を欠くものである。

(三) 実額主張

(1) 原告の係争各年分の事業所得の金額は実額で算出することが可能であり、右各事業所得に係る売上金額、仕入金額、経費及び事業所得の金額は別表第一一のとおりである。

(2) 被告は、原告の実額主張が許されるべきでない旨主張するが、推計課税はあくまでも実額所得を算出するための一方法にすぎないのであり、課税処分の適否は、専らその処分で認定された所得の額が所得税法の規定による真実の所得との対比において正しいものといえるか否かの観点から判断されるべきであり、しかも、その判断の資料等について何らかの制限があるものと解すべき実体法上の根拠規定もないのであるから、原告の実額の主張が優先されるべきである。

(3) 必要経費は、「総収入金額に係る売上原価その他総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額」と定められているから、必要経費の立証については、売上原価を除き、収入との個別対応を立証することまでは必要でなく、<1>主張する経費が存在し、かつ、その年に債務が確定していること、<2>右経費が当該納税者の事業と関連性を有することの二点を証明すれば足りる。

被告は、原告の主張する収入金額が総収入金額であること及びその主張する経費の金額がその収入と対応することまでも証明しなければならないと主張するが、原告に右のごとき証明を要求することは、本証としての証明の程度を要求するつもりであり、収入金額と必要経費額双方について課税庁たる被告に主張・立証責任がある課税処分取消訴訟の原則に反するものである。現に事業に関連してなされた支出については、それが一定の具体的な収入金額と個別に対応しているか否かの点について疑問があると考えられる場合であっても、必要経費額に算入することを認めるべきである。

2  本件各賦課決定の違法について

原告の係争各年分の事業所得の金額は別表第一一のとおりであり、いずれも確定申告における事業所得の金額を下回るから、本件各賦課決定は違法である。

六  原告の主張に対する被告の認否

1  原告の主張1(一)は争う。

(一) 所得税法二三四条一項は、「所得税に関する調査について必要があるとき」質問検査をなし得る旨定めているが、右規定は、国税庁、国税局又は税務署の調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情にかんがみ、客観的な必要性があると判断される場合には、前記職権調査の一方法として、同条一項各規定に者に対し質問し、又はその事業に関する帳簿書類その他当該調査事項に関連する物件の検査を行う権限を認めた趣旨であって、この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当の限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているもの解すべく、また、暦年終了前又は確定申告期限経過前といえども質問検査が法律上許されないものではなく、実施の日時場所の事前通知、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知のごときも、質問検査を行う上の法律上一律の要件とされているものではない。また、質問検査権の行使の相手方にその業務に従事する家族や従業員もなり得ることについては、所得税法二四四条の処罰規定の対象者から見て明らかであるし、質問検査権行使の相手方を法文の文言どおり厳格に解し納税義務者本人に限定すると、場合により当該業務の実態の正確な把握ができなくなるおそれを生じ、質問検査の実効性が失われる結果を招来することは見易い道理であり、また、右のように解しても、別段納税義務者本人に不利益を課するものでもない。

(二) 所得税法二三四条一項三号規定の反面調査を法律上同条同項一号の納税者本人調査等の補充的規定と解して後者の調査が不可能である場合に限り許されるものと解すべきではなく、その順序・方法等をどのようにするか等は、当該調査の必要性と相手方の私的利益とを比較衡量し社会通念上相当な限度内である限り、権限ある税務職員の合理的選択に委ねられていると解すべきである。

本件においては、大城実査官は、昭和五六年五月二五日は事前の連絡をしないで臨場したが、同月二六日及び二七日は事前に晴津子を介して臨場日時を原告に伝えた上で原告の店舗に臨場しており(二七日については、前日午後四時ころに晴津子を介して「今忙しいので来月にしてほしい。」との申出はあったものの、その際も大城実査官は二七日の調査協力を要請している。)、それにもかかわらず、原告は調査に応じられない旨の連絡をすることなく在宅しなかったものであり、このような原告の対応からみて、大城実査官は、原告が誠意をもって調査に応ずることは期待できないと判断し、原告との取引先の反面調査を行ったものである。

(三) 本件においては、千葉上席は、「収入金額に比較して所得金額が低調と認められること。事業所得の金額の計算内容を確認したいこと。」と調査の理由を明らかにしている。

2  原告の主張1(二)(1)イは否認する。

被告の調査担当者は、昭和五六年五月二五日から同年九月一八日までの間、一二回(五月二六日は午前・午後の二回)にわたり原告方に臨場し、原告らに対して調査に対する協力と係争各年分の帳簿書類等の提示を要請したが、原告は、<1>多忙であること、<2>大城実査官が謝罪しなければ調査に応じられないこと、<3>立会人がいなければ調査に応じられないこと、<4>調査の理由の開示がないこと、<5>白色申告者であるから帳簿書類等を提示する必要はないことなどを理由に調査担当者の調査に協力しなかった。そのために被告は、原告の帳簿書類・原始記録等に基づいた実額により原告の事業所得の金額を計算することが不可能であったのであるから、推計の必要性があったことは明らかである。

原告は、七月二九日から九月一八日までの四回までの調査は、原告の協力のもとにされていると主張するが、右四回の調査において、いずれも民商の会員を立ち会わせ、調査担当者が係争各年分の事業所得の金額の具体的な計算内容の説明及びその基礎となった帳簿書類等の提示を求めたにもかかわらず、単に収入金額や経費の一部分について読み上げを重ねたのみで、到底調査に協力したと認められるものではない。

千葉上席は、係争各年分の事業所得の金額の具体的な計算過程を帳簿書類等を提示の上説明するよう求めたのであるが、原告らは昭和五五年分の収入、仕入及び経費のそれぞれの科目についてその合計金額を読み上げ、その後は千葉上席が具体的に質問したことについてのみ読み上げをするという状況であった。そして、昭和五五年分の収入、仕入及び経費のそれぞれの科目についてその合計金額、減価償却費関係などが読み上げられるまでに、大城実査官が最初に調査に臨場した五月二五日以来四か月近く費やされており、更に調査を続行したとしても具体的な説明を得られる見込みはなく、仮に得られたとしても、それを明らかにする帳簿書類等の提示がなければ、右帳簿書類等に基づいた収支実額により原告の係争各年分の事業所得の金額を算定することは不可能であったことから、被告は、原告の協力を得て調査を進展させることは不可能であると判断せざるをえ得なかったのである。

3  原告の主張1(二)(2)イは争う。

(一) 同業者の抽出基準

(1) ガソリンスタンド業及び土木工事業の同業者の抽出基準は次のとおりである。

ア ガソリンスタンド業について

同業者は、古川税務署管内でガソリンスタンド業を営む個人の事業者であって、かつ、次の<1>なし<4>のいずれの条件にも該当する者を全員抽出したものである。

<1> 所得税の申告を青色申告によっている者

<2> 国税通則法の規定に基づく不服申立てがされ現在審理中の者又は訴訟係属中の者以外の者

<3> 売上減価の額が原告の売上原価の額の半分ないし二倍の範囲内にある者

<4> 年を通じて事業を継続して営んでいる者で、災害等により経営状態が異常でない者

イ 土木工事業について

同業者は、古川税務署管内で土木工事業のうち主として農業関係土木(暗渠・排水等)工事を営む個人の事業者であって、かつ、次の<1>ないし<4>のいずれの条件にも該当する者を全員抽出したものである。

<1> 所得税の申告を青色申告によっている者

<2> 国税通則法の規定に基づく不服申立てがなされ現在審理中の者又は訴訟係属中の者以外の者

<3> 雇人費の額が原告の昭和五五年分の雇人費の額の半分ないし二倍の範囲内にある者

<4> 年を通じて事業を係属して営んでいる者で、災害等により経営状態が異常でない者

(2) 一般に事業遂行に影響を及ぼす種々の条件・状況等(例えば取引慣行、商品等の市場価格、賃金水準等)には地域的な特性があり、同業者を抽出するに当たっては、原告の所在地と経済事情の類似する地域の事業者の中から抽出することが最も適当であるといえるから、古川税務署管内で事業を営む者とした抽出基準には合理性があり、また、ガソリンスタンド業又は土木工事業(土木工事業にあっては、その範囲が広いことから、原告と同様に主として農業関係土木工事を営む者としたものである。)と限定することで他の業種を兼業する者を除き、さらに個人事業者とすることで法人事業喪のを除外しているから、右抽出基準により抽出された同業者は、原告と立地条件、事業内容等が類似する者である。

また、同業者は、推計の基礎とした売上原価の額又は雇人費の額が原告の半分ないし二倍の範囲内(以下「倍半基準」という。)にある者であるから、原告と事業規模が類似している。

ところで、被告は、土木工事業の同業者の抽出に当たり、昭和五三年分及び昭和五四年分についても昭和五五年分の雇人費の額で倍半基準を設定したのであるが、これは、昭和五三年分の雇人費の額が実額で把握できなかったために、同年分についても実額が判明した昭和五五年分の雇人費の額に基づいた倍半基準によったものであり、被告が推計した昭和五三年分の雇人費の額のような規模の同業者が抽出される可能性は極めて低いこと、右基準で抽出された同業者の比率は原告に不利益となるものではないことから、合理性に欠けるものではない。

(二) 同業者の抽出過程

(1) 同業者は、仙台国税局長が古川税務署長に昭和五九年六月一四日付け通達を発し、それに対し同署長から報告があった「個人事業経営者の課税事績報告書」によって採用したものである。

古川税務署長は、右報告に際し、同署長に申告書を提出している者の中から右通達の各条件を満たす者の全てを機械的に漏れなく抽出しており、そこに恣意が介在する余地は全くないのであるから、その抽出過程は極めて公平妥当なものであり、合理性を有するものである。

(2) 被告が同業者の住所氏名を秘匿して同業者率を立証することについては、同業者の住所氏名を公表した上でその収入金額等を明らかにすることは守秘義務によって禁止されていること、同業者の住所氏名等を開示しなくとも、同業者の抽出方法の無作為性及びその資料の正確性を明らかにすることにより、かかる資料による推計の合理性を担保し得ること、被告が提出した「個人事業経営者の課税事績報告書」には、収入金額、売上原価の額及び算出所得金額等本件推計の合理性を判断するために必要な同業者の営業状況は明らかにされており、原告側も反証の手段を全く奪われるわけではなく、原告において通常は保存している帳簿書類又は原始記録の提出若しくはこれに代えて集め得る資料の提出等により反証を行うことは可能であるから、訴訟の追行上、著しい不利益を与えるものではないことから、是認されるべきである。

また、守秘義務により同業者の住所氏名のみならず業務内容等の詳細を明らかにできないことについても、同業者の氏名、業務内容の詳細を開示することによって失われるおそれのある当該同業者の利益及び右開示ないしこれによって同業者が不利益を受けることがさらにもたらすおそれのある税務行政上の不都合し、これを開示されないことによって受ける原告の防御上の不利益の僅少性ないし代替防御手段の可能性及びこのような事態を自ら招いた原告の帰責性とを対比するならば、本件同業者の氏名、業務内容等の具体的な開示がないのもやむを得ないものといわざるを得ない。

(3) 原告は、雇人費率、算出所得率の変更は許されないと主張するが、課税処分取消訴訟においては、当該処分の違法性の有無は課税標準率等又は税額等が客観的に正当な数額であるか否かによって判断されるべきであり、したがって、課税庁において当該課税処分後に収集した資料をもってその適法性を立証することは禁止されておらず、被告が本訴において新たな同業者を抽出して主張することは、当然に許されるところである。

また、原告は、原処分庁の選定した「同業者」と審判所において選定した「同業者」及び本訴において対象としている「同業者」との間に変更があることから、被告が同業者を恣意的に選定したとの疑念がある旨主張するが、同業者の抽出に当たり恣意が介在する余地は全くないのであるから、原告の右主張は失当である。

4  原告の主張1(二)(2)ウは争う。

(一) 被告は、推計の基礎となる項目を雇人費の額として、同業者の平均雇人費率及び平均算出所得率を用いて原告の土木工事業の算出所得金額を推計したが、この方法によったのは、原告が調査に協力しなかったために雇人費の額以外に推計の基礎となる項目を把握できなかったからである。

仮に、抽象的には、右推計方法以外にも合理的な方法が想定されるとしても、推計課税にあっては、納税者の税務調査に対する協力の程度いかんによって採用し得る推計方法が左右されるのであるから、課税庁が把握し得た基礎事実の範囲内でより合理的な推計方法を採用した場合、その推計には合理性があるといえるのである。

(二) 被告の主張する主たる工事期間は、一般的に農閑期を利用して行われる農業関係土木工事は農繁期である四月ないし九月以外の一月ないし三月及び一〇月ないし一二月に行われるという実態に即したものであって、そこに何らの恣意もないし、原告自身「雇人費の額は佐々木組に係る売上金額の多寡に応じて増減している。」と認めている。

(三) 農業関係土木(暗渠排水等)工事業においては、ブルドーザー等の機械力以外に、堀削後の整備、パイプの布設、埋め戻し、もみ殻の投入、のり面の整備等に人力を必要とするものであるから、工事量に応じて得られる収入金額と労務費が密接な関係にあることは明らかである。

また、いかに類似する業者間にあつても営業上の諸要素には差があるのであるから、本件の同業者間においても雇人費率等にばらつきがあるのは当然であるが、平均比率による推計を採用することで、右営業上の差異は右平均比率の算出過程の裡に捨象されることになる。

5  原告の主張1(二)(2)エは争う。

(一) 原告は、営業形態における特殊事情が存在する旨主張するが、本件のように同業者の平均値による推計にあっては、原告の個別的営業条件のいかんは、平均値による推計自体を不合理ならしめるほどに顕著なものでない限り、右平均値の算出過程の裡に捨象されるものであり、また、推計課税における同業者の類似性は、既存の資料に照らし、一応合理的と認められる範囲のもので足りるのであって、同業者の業態等の「酷似性」又は「合致性」まで必要とされないのである。

また、本件で被告の採用した推計課税の基礎数値は、原告の事業所得の金額の推計に当たっての合理性を十分に担保しているのであって、調査に全く協力しなかった原告が、被告をして原告の営業形態等の個別的特性を知り得ない状況に追い込みながら、同業者と原告の業態の高度な個別的類似性を要求すること自体、信義にもとるものとして許されないというべきである。

(二) 原告は、本件推計課税にあたって、原告に類似同業者と比して特殊事情が存在しないことについてなんら主張・立証がない旨主張するが、立地条件、営業形態等の特殊事情の主張立証責任は原告にあるのであるから、特殊事情を抽象的に述べるのみで、自らの主張立証責任を被告に転嫁する原告の右主張は失当である。

(三) 原告は、人件費、外注工事費、減価償却費が特別経費になると主張するが、そもそも、被告は、原告が主張するような特別経費を実額で把握することはできなかったし、一般に人件費、外注工事費、減価償却費は、原価計算上原価の積算項目とされる場合が多く、収入金額と相関関係にあるものであり、各同業者間の数値に多少の差異が認められたとしても、平均比率算定の過程の裡に捨象されることになるし、仮に原告が自己の経費の各項目について同業者の数値と比較するというのであるとすれば、比較すべき原告の各経費は実額でなければ意味がないのであるが、本訴において原告が主張する経費の額は実額とは到底いえるものではない。

6  原告の主張1(三)は否認する。

(一) 申告納税制度の下における納税者は、税法の定めるところに従った正しい申告をする義務を負うとともに、その申告を確認するための税務調査に対しては、所得金額の計算の基礎となる経済取引の実態を最もよく知っている者として、その所得金額を算定するに足りる直接資料を提示し、その申告の内容が正しいことを税務職員に説明する義務を負うものである。

そして、申告納税義務に違反して直接資料を提示せず、調査に協力しないために、やむを得ず課税庁をして推計課税を余儀なくさせた納税者が実額反証を許される結果、申告納税義務を遵守する誠実な納税者よりも利益を得るような事態を生ぜしめるべきでないこと、納税者の実額反証後に実施される課税庁の反面調査、証拠の収集は、確認すべき個々の経済取引がされている相当の年月を経過してなされるため、関係資料の保存期間の経過や取引関係者の転出、所在不明などによって限界があり、著しく困難であるのに反し、実額反証を主張する納税者は、もともと経済取引の当事者であって、自己に有利な証拠を提出するのは容易であり、両者は対等な立場にないことからすると、申告納税義務に違反し推計課税を余儀なくさせた不誠実な納税者に対する推計課税は、その推計による所得金額が実額を著しく超え、推計課税を維持することが租税負担の公平に著しく反することが明白になった場合にのみ違法となるものと解すべきである。

本件において、原告は、税務調査に全く協力せず、その結果、課税庁をして原告の所得実額についての調査をほとんど不可能ならしめたこと、本訴においても、原告の実額反証は、原告がその意思を表明して依頼約一年半を要し、本訴提起後約三年半たって一応の主張を終えたが、その時点で原告の所得に係る取引が行われてから約一〇年を経て反面調査は著しく困難となっていたことから、原告り実額反証は許されるべきでない。

(二) また、納税者が実額反証により推計課税の違法性を立証するためには、その主張する実額が真実の所得額に合致すること合理的疑いを容れない程度に立証する必要があると解すべきであって、右実額の存在をある程度合理的に推測させるに足りる具体的事実を立証すれば足りると解すべきものではない。

そして、原告が、その主張する実額が真実の所得の額に合致することを立証するためには、<1>その主張する収入及び経費の各金額が存在すること、<2>その収入金額がすべての取引からすべての収入金額(総収入金額)であること、<3>その経費がその収入と対応するもの(必要経費)であることの三点を証明しなければならないというべきである。けだし、本件の場合において、原告が主張する収入と経費の各金額を証明し、かつ、その対応関係を証明したとしても、それのみでは、それによって算出された所得の額が真実の所得の額にどれだけ近似しているかは不明であり(収入金額が総収入金額の一部であれば、控除された経費がその収入に対応するものであっても、算出される所得は真実の所得の一部に過ぎない。)、かつ、被告が推計課税(同業者比率法)によって算出した所得の額が真実の所得を上回ることを証明したことにはならず、その推計課税の合理性を何ら覆したことにはならないからである。

(三) 原告の実額反証は極めてずさんなものであり、次のとおり、到底実額についての立証を尽くしたとはいえないものであるから、原告の実額主張には理由がなく、原告の係争各年分の事業所得金額を実額で計算することはできないというべきである。

(1) 収入金額について

事業所得の実額による把握は、通常すべての取引先からのすべての収入金額(総収入金額)及びその総収入に対応した費用の金額(必要経費)を正確に記帳した会計諸帳簿によつて算出し、かつ、その帳簿の真実性・正確性を売上や経費に係る請求書や領収書等の原始記録を確認することによってされるものであるところ、本件訴訟において、原告が収入金額を立証する証拠として提出したものは、土木工事収入に係る請求書の控え、ガソリンスタンド売上に係る売上記録帳の一部だけで、事業所得に係る収入金額の全体を明らかにするに不可欠な現金出納帳、売掛に関する会計帳簿及びレジペーパー、売上伝票、日計表等の原始記録の提出がされていない。

また、原告は、係争各年分の確定申告書の二面に記載した収入が実額であることを立証することなくそのまま総収入金額に固定した上で土木工事収入とガソリンスタンド売上を主張しているにすぎず、その主張は、被告から原告主張の佐々木組以外の工事収入の存在を主張されると、それまで原告が主張したガソリンスタンド売上が減少し、反対にガソリンスタンド売上の主張が増加すれば土木工事収入が減少するという極めて不合理なものである。

したがって、原告の主張する収入金額は、直接資料に基づいて算定された実額であると到底認められものではない。

(2) 必要経費について

原告が実額主張する経費の内容及びそれを立証するものとして提出した書証は、その支払の宛先、支払年月日又は支払の目的等の記載を欠くずさんなものであり、原告が主張する金額をもって事業所得に係る必要経費の実額とは認められない。

7  原告の主張2は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

一  請求原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件調査等の経緯について

抗弁1(本件調査等の経緯)(二)のうち、昭和五六年五月二五日、大城実査官が事前の連絡をしないで原告の店舗に臨場したが、原告は不在であったこと、大城実査官は、晴津子及び小笠原に対して事業内容等について質問したが、具体的な回答を得られなかったこと、そこで、晴津子に対し翌日再臨場したい旨の伝言を依頼して退去したこと、同(三)のうち、同月二六日午前一〇時前ころ、大城実査官が原告の店舗に臨場したが、原告は不在であったこと、そこで、大城実査官はしばらく店舗にいた後、昼少し前に退去したこと、同(四)のうち、同日午後、大城実査官が原告の店舗に臨場したが、原告は不在であったので、退去したこと、その後、晴津子から大城実査官に電話をし、「今忙しいので、来月にしてほしい。」旨原告の伝言を伝えたが、大城実査官はこれに応じなかったこと、同(五)のうち、同月二七日午前九時半ころ、大城実査官が原告の店舗に臨場したが、原告が不在であったので、退去したこと、同(六)のうち、同日、大城実査官が振興相互銀行田尻支店に臨場し、原告の預貯金について調査したこと、原告が振興相互銀行に抗議の電話をしたところ、大城実査官が「銀行調査はできる。」旨回答したこと、同(七)のうち、大城実査官と原告が六月二日に原告方に臨場することで合意したこと、同(八)のうち、同年六月二日午前一〇時ころ、安達統括官及び及川上席国税調査官が原告の店舗に臨場したところ、原告及び民商会員二名が待機していたこと、原告らが大城実査官の調査について抗議し、同実査官が原告方で原告に謝罪することを要求したこと、同(九)のうち、同月九日午前一〇時ころ、安達統括官及び千葉上席が原告の店舗に臨場したこと、安達統括官らが原告に対し調査に対する協力を要請したこと、同(一〇)のうち、同年七月一五日午前一〇半ころ、千葉上席が原告の店舗に臨場したこと、原告が調査に応じなかったので、退去したこと、同(一一)のうち、同月二四日午前九時半ころ、千葉上席が事前連絡のうえ原告の店舗に臨場したところ、原告及び民商会員二名が待機していたこと、原告らが調査理由の開示を要求したこと、原告が同月二九日に来てくれと言ったこと、同(一二)のうち、同月二九日午前九時五〇分ころ、千葉上席が原告の店舗に臨場したところ、原告及び民商会員二名が待機していたこと、千葉上席が昭和五五年分の明細を求めたのに対し、原告は白色申告であるから帳簿書類等の提示は必要ないとして、民商会員が原告の昭和五五年分申告に係る収入金額、仕入金額、経費のそれぞれについて科目ごとにその合計金額を読み上げたが、減価償却資産の関係は読み上げなかったこと、原価償却関係は次回にしてほしい旨述べたこと、同(一三)のうち、同年八月二五日午前一〇時ころ、千葉上席が原告の店舗に臨場したところ、原告及び民商会員が待機していたこと、民商会員が昭和五五年分のガソリンスタンド関係の減価償却を読み上げたこと、同(一四)のうち、同年九月五日午前九時四五分ころ、千葉上席が原告に案内され原告の自宅に来たところ、民商会員が待機していたこと、次回の調査日を同月一八日と決めて午前一一時半ころ千葉上席が原告方から退去したこと、同(一五)のうち、同月一八日午前一〇時ころ、千葉上席が原告方に臨場したところ、原告及び民商会員が待機していたこと、原告らが昭和五五年分の仕入金額、減価償却及び人件費につき説明したこと、千葉上席が午前一一時半ころ原告方から退去したこと、同(一六)のうち、同年一〇月三一日、本件各更正及び本件各賦課決定の通知があったこと、以上の事実は、当事者間に争いがない。

右事実に、成立の争いのない乙第五及び第六号証の各一ないし三、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第七三号証、証人佐藤斗亮、同小笠原米子及び同宮本晴津子の各証言(後記採用しない部分を除く。)、証人大城修、同安達衛吉及び同千葉茂幸の各証言、並びに原告本人尋問の結果(後記採用しない部分を除く。)を総合すると、次の欠く事実を認めることができる。

1  被告は、ガソリンスタンド業及び土木工事業を営む原告の係争各年分の所得税について、<1>係争各年分の確定申告書に、事業所得に係る収入金額及び必要経費の内容を記載した書類の添付がなかったため、事業所得の金額の計算内容が不明確であったこと、<2>確定申告書に記載された事業所得の収入金額が大幅に増加しているのに対し、所得金額が低調であったこと、<3>土地取得及び自宅新築の資金源について検討する必要があったこと、<4>原告の所得税について開業以来調査が行われていないことから、調査の必要があると判断した。

2  昭和五六年五月二五日、仙台国税局から被告所部職員に併任発令(併任期間は同日から同月三〇日まで)された大城実査官は、原告に対する所得税調査のために、事前の連絡をしないで、午後〇時五〇分ころ、原告の店舗に臨場し、小笠原に対し右臨場目的を告げて原告への取次を依頼したが、原告は集金のために出かけて不在であり、小笠原からは、原告は行先を告げずに出かけ、いつ帰るかも分からない旨回答があった。そこで、大城実査官は、原告の自宅にいた晴津子に対し原告の所得税の調査のため臨場したこと及び翌日午前九時半ころ再臨場したい旨の原告への伝言を依頼して店舗に戻り、原告の帰りを待ちながら事業内容等について小笠原に質問したが、具体的な回答を得られなかったので、しばらく外で原告の帰りを待ったうえ、午後二時五〇分ころ原告の店舗から退去した。

3  同月二六日午前九時四〇分ころ、大城実査官は、原告の店舗に臨場し、晴津子及び小笠原に対し原告の所得税調査のために再臨場した旨告げたところ、原告は集金のために出かけて不在であり、晴津子からは「今日も税務署が調査に来ると昨夜父に伝えたが、今日は仙台の方に出かけた。」旨の話があった。そこで、大城実査官は、しばらく原告の帰りを待ったが、原告が帰宅しなかったので、晴津子に対し再度臨場する旨の原告への伝言を依頼し、午前一一時一〇分ころ原告の店舗から退去した。

4  同日午後二時ころ、大城実査官ほか原告の店舗に臨場したが、原告不在であったので晴津子及び小笠原に対し翌日原告の所得税調査に臨場する旨の原告への伝言を依頼し、原告の店舗から退去した。その後、晴津子に対し、「今忙しいので、来月にしてほしい。」旨伝言を依頼し、同日午後四時ころ、晴津子が大城実査官に対し、その旨伝えたところ、大城実査官は、「皆さんに忙しい中で調査に協力していただいている。翌日午前九時半ころ調査に臨場することを原告に伝言してもらいたい。」旨回答した。

5  同月二七日午前九時半ころ、大城実査官は原告の店舗に臨場したが、原告は集金のために出かけて不在であったので、晴津子及び小笠原に対し所得税調査に協力してもらいたいとの伝言を依頼し、原告の店舗から退去した。

6  同日、大城実査官は、四回にわたる原告の店舗への臨場にもかかわらず、原告に面接して調査を行うことができなかったので、原告の預貯金について調査を実施することとし、振興相互銀行田尻支店に臨場した。そして、大城実査官は、同支店で銀行調査を行ったが、そのことを知った原告は、午後四時ころ、同支店に電話をし、大城実査官に対し、「黙って銀行調査ができるのか、今忙しいので来月にしてもらいたい。」旨抗議した。これに対し、大城実査官は、「四回にわたる臨場にもかかわらず会えなかったので、銀行調査を実施したものであり、本人の了承を得なくとも銀行調査はできる。」旨回答した。

7  同月二八日午後四時ころ、大城実査官は、原告方に電話したが、原告が不在であったので、応答した原告の妻に対し六月二日に原告の所得税調査に臨場することを原告に伝言するよう依頼し、了承を得た。

8  同年六月二日午前一〇時ころ、安達統括官及び及川上席国税調査官が原告の店舗に臨場したところ、佐藤会長及び古川民主商工会事務局の関俊彦(以下「関」という。)が待機していた。安達統括官らは、原告に対し協力を要請したが、原告らは、大城実査官の調査を非難し、同実査官が原告方で原告に謝罪するよう要求した。そこで、安達統括官らは、調査に対する協力が得られなかったことから、この日の調査を断念し、午前一〇時三〇分ころ原告の店舗から退去した。

9  同月九日午前一〇時ころ、安達統括官及び千葉上席が事前連絡のうえ原告の店舗に臨場したところ、原告、佐藤会長及び関が待機していた。安達統括官らが原告に対し調査に対する協力を要請したが、原告らは、前回の臨場時と同様に、大城実査官の調査を非難し、同実査官が原告方で原告に謝罪するよう要求した。そこで、安達統括官らは、調査に対する協力が得られなかったことから、この日の調査を断念し、午前一〇時五〇分ころ原告の店舗から退去した。

10  その後、千葉上席は、原告に対し再三にわたり電話をし、調査に対する協力を要請したが、原告は、大城実査官の調査に対する非難を繰り返して調査には応じなかった。そこで、千葉上席は、このままでは調査日が決まらないが立会人のいないところで原告と話すことにより調査の進展が図かれるのではないかと考え、同年七月一五日午前一〇時三〇分ころ、事前に連絡をしないで、原告の店舗に臨場し、原告に対し調査に対する協力を要請した。しかし、原告は、「調査の立会人がいなければ、調査には応じられない。」と述べて、調査に応じなかったので、千葉上席は、この日の調査を断念し、午前一〇時五〇分ころ原告の店舗から退去した。

11  同月二四日午前九時三〇分ころ、千葉上席が事前連絡のうえ原告の店舗に臨場したところ、原告、佐藤会長及び関が待機していた。千葉上席は、調査に対する協力を要請したが、原告らが調査理由の開示を要求したので、千葉上席は、「収入金額に比較して所得金額が低調と認められること。事業所得の金額の計算内容を確認したいこと。」と説明し、係争各年分事業所得の金額の内容を帳簿書類等を提示のうえ説明するよう要請した。しかし、原告は、「今日は準備ができていないから、七月二九日にもう一度来てくれ。」と言って、調査には協力しなかったことから、千葉上は、この日の調査を断念し、午前一〇時一〇分ころ原告の店舗から退去した。

12  同月二九日午前九時五〇分ころ、千葉上席が原告の店舗に臨場したところ、原告、佐藤会長及び関が待機していた。千葉上席は、原告に対し、調査に対する協力と係争各年分の帳簿書類等の提示を要請したが、原告は、白色申告であるから帳簿書類等の提示は必要ないと言って提示には応じず、佐藤会長に原告の昭和五五年分申告に係る収入金額、仕入金額、経費のそれぞれについて科目ごとにその合計金額を読み上げさせたので、千葉上席は、やむを得ずこれを書き取った。また、千葉上席は、ガソリンの仕入及びガソリンスタンド業の減価償却費関係について質問したが、原告は、「まだ中身を調べていないので、次回にしてもらいたい。」旨述べた。そこで、千葉上席は、このような状態ではこの日の調査の進展は望めないと判断し、午前一一時三〇分ころ原告の店舗から退去した。

13  同年八月二五日午前一〇時ころ、千葉上席が事前連絡のうえ原告の店舗に臨場したところ、原告、佐藤会長及び関が待機していた。千葉上関は、原告に対し、調査に対する協力と係争各年分の帳簿書類等の提示を要請したが原告は、鈴与からのガソリンの昭和五五年分の仕入金額、ガソリンスタンド業に係る原価償却資産の取得年月日及び取得価額を佐藤会長に読み上げさせ、また、「鈴与以外からの仕入は分からない。」などと述べたので、千葉上席は、このような状態ではこの日の調査の進展は望めないと判断し、午前一一時三〇分ころ原告の店舗から退去した。

14  同年九月八日午前九時四五分ころ、千葉上席が事前連絡のうえ原告の店舗に臨場し、原告から原告の自宅に案内されたところ、そこに佐藤会長及び待機していた。千葉上席は、原告に対し、土木工事業の減価償却費及び売上の内容、ガソリンスタンド業のガソリン以外の仕入等について質問したところ、原告は、「土木工事の売上はどんぶり勘定でわからないので、田尻町の佐々木組を調べてもらいたい。人件費は、田尻町役場で調べてもらいたい。」旨述べたので、千葉上席は、このような状態ではこの日の調査の進展は望めないと判断し、次回の調査日を九月一八日と決めて、午前一一時三〇分ころ原告方から退去した。

15  同月一八日午前一〇時ころ、千葉上席が原告宅に臨場したところ、原告、佐藤会長及び関が待機していた。千葉上席は、原告に対し、調査に対する協力と係争各年分の帳簿書類等の提示を要請したが、原告は、昭和五五年分について、ガソリンスタンド業の仕入先ごとの仕入金額(ただし、その合計金額は、七月二九日読み上げの金額より約四〇〇万円少ないものであった。)、土木工事業に係る減価償却資産の取得年月日及び取得価額、小笠原に対する人件費の内容を佐藤会長に読み上げさせ、また、小笠原の人件費のメモの提示と土木工事業の雇人費明細書の写しを提出したのみであったので、千葉上席は、このような状態ではこれ以上の調査の進展は望めないと判断して、午前一一時三〇分ころ原告方から退去した。

16  右のような状況では、原告の係争各年分の所得金額を帳簿書類等に基づいた収支実額により計算することは不可能であると判断されたので、千葉上席は、原告の取引先の反面調査等を実施し、その結果に基づき原告の係争各年分の所得金額を推計により算定したところ、原告の申告額はいずれも過少であると認められたため、同年一〇月三一日、被告は、本件各更正及び本件各賦課決定を行った。

以上の事実を認めることができ、証人佐藤斗亮、同小笠原米子及び同宮本晴津子の各証言並びに原告本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らし、採用することができない。

三  本件各更正の違法について

1  手続的違法

原告は、大城実査官及び千葉上席のした本件調査に関し、調査手続に違法がある旨主張するが、税務調査手続の違法は一般に更正の違法を招来するものとは断じ難いのみならず、以下のとおり、本件調査手続きに原告主張の違法があるということはできない。

(一)  原告は、所得税法二三四条一項の質問検査は、任意調査であって、被調査者の協力を得て行うものであるし、突然の調査は相手方に迷惑をかけるから、原則として事前通知を必要とするところ、大城実査官は、昭和五六年五月二五日から二七日までの三日間は事前通知なく突然訪れて、帳簿書類の提示その他の調査協力を求めたものであり、また、質問検査の対象者には家族や従業員は含まれないのに、大城実査官は、従業員にすぎない小笠原に対し原告の営業や資産に関し質問をしているもので、調査権限の違法な行使である旨主張する。

しかしながら、前記二2ないし4に認定のとおり、大城実査官が事前通知なく臨場したのは同月二五日のみで、同月二六日及び二七日については、臨場日時について原告への伝言を晴れ津子に依頼したうえで臨場しているのであり、この点の原告主張は、その前提たる事実関係を欠き、採用することができない。また、

得税法二三四条一項に基づく質問検査を行う場合のその範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施細目については、質問検査の必要があり、かつ、これを相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当の限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべく、実施の日時場所の事前通知は質問検査を行う上の法律上一律の要件とされているものではない(最高裁昭和四五年(あ)第二三三九号同四八年七月一〇日第三小法廷決定・刑集二七巻七号一二〇五頁参照)。そして、大城実査官が同月二五日に事前通知なく臨場したことに、右の観点から違法とすべき点は認められないから、原告の主張は失当である。

(二)  原告は、反面調査が許されるのは、納税者本人を調査してみたが、その調査だけでは課税標準及び税額等の内容が把握できない場合にかぎらるところ、大城実査官は、昭和五六年五月二七日、原告に対し一度も調査のため面接していないにもかかわらず、振興相互銀行田尻支店に赴き反面調査を行っているもので、調査権限の違法な行使である旨主張する。

しかしながら、所得税法二三四条一項に基づく質問検査権の行使としての税務調査を実施するに当たり、被調査者から要請があった場合に調査理由を開示すべきか否かについても、右(一)判示のとおり、調査の必要と相手方の利益との衡量において社会通念上相当の限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべきところ、前記二2ないし6に認定のとおり、大城実査官は、四回にわたる原告の店舗への臨場にもかかわらず原告に面接して調査を行うことができなかったので、振興相互銀行田尻支店での調査を行ったものであった、右の反面調査の実施に、右の観点から違法とすべき点は認められないから、原告の主張は失当である。

(三)  原告は、税務調査において調査の合理的理由ないし必要性の具備が適法要件であることは明らかであり、質問検査権が公権力の行使であるとかんがみると、被調査者の要求があれば、調査を行う税務職員は、税務調査の理由を開示すべきであり、調査理由の開示がない場合には、被調査者は、その調査を拒み得る旨主張する。

しかしながら、前記二11に認定のとおり、千葉上席は、昭和五六年七月二九日の調査において、原告の調査理由開示の要請に対し、「収入金額に比較して所得金額が低調と認められること。事業所得の金額の計算内容を確認したいこと。」と説明して調査理由を開示しているのであり、千葉上席が調査理由を開示しなかったとする原告の主張は失当である。のみならず、所得税法二三四条一項に基づく質問検査権の行使としての税務調査を実施するに当たり、被調査者から要請があった場合に調査理由を開示すべきか否かについても、前記(一)判示のとおり、調査の必要と相手方の利益との衡量において社会通念上相当の限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべく、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知は質問検査を行う上の法律上一律の要件とされているものではない。そして、本件調査において、千葉上席が、右の程度の調査理由を告げて、調査に対する原告の協力を求めたことに、右の観点から違法とすべき点は認められないから、原告の主張は失当である。

2  事業所得の金額について

(一)  推計の必要性について

(1) 被告が推計により係争各年分の原告の事業所得の金額を算出して本件各更正を行ったことは当事者間に争いがない。

ところで、課税標準となる所得金額の算定は実額を計算して決定するのが原則であり、推計により所得金額を認定して課税することは、一般に、<1>納税者が帳簿書類を備え付けておらず、収入・支出の状況を直接資料によって明らかにすることができない場合、<2>納税者が帳簿書類を備え付けてはいるが、誤記・脱漏が多いとか、同業者に比し所得率等が低調であるとか、二重帳簿が作成されているなど、その内容が不正確で信用性に乏しい場合、<3>納税者又はその取引関係者が調査に協力しないため、直接資料が入手できない場合など、税務署長が十分な直接資料を入手することができないため、直接資料に基づき、所得金額を算定することができない場合に限り許されるものというべきことは原告の主張するとおりである。

(2) 原告は、原告が本件調査に対し非協力的であったりしたことはなかったのであるから、被告において十分に調査を行えば実態の把握ができ、推計により原告の事業所得の金額を算出する必要性すなかったはずてある旨主張する。

しかしながら、前記二において認定した事実によれば、原告は、被告所部職員である大城実査官及び千葉上席による本件調査に際して、要求のあった帳簿書類の提示をせず、非協力的態度に終始したものであるところ、本件調査に対する原告の対応が右のようであったため、被告は、係争各年分の原告の事業所得の金額を実額で把握することができず、右各金額を推計により算出して本件各更正に及んだことが認められ、右の各事実関係によれば、本件各更正において、推計の必要性があったことは明らかである。

(二)  実額反証の可否について

ところで、推計の必要性の要件は処分時において存在すれば足りると解すべきであるから、その後に実額の把握が可能になったとしても、それによって当然に処分が手続上違法となるものではない。しかしながら、推計課税と実額課税の課税方法の別は、一方が帳簿書類等の直接資料によって計算するのに対し他方が同業者率等の間接的な資料によって計算するという、客観的に存在する所得を認識するための方法の別をいうにすぎず、一般論としては、帳簿書類等の直接資料によって計算された所得金額の方が、間接的な資料によつて計算された所得金額に比べると、より真実の所得金額に近似するものと考えられるから、本訴において、帳簿書類等の直接資料によって所得の実額が明らかになったときは、合理的な推計であっても実額には対抗することができないものといわざるを得ない。

この点について、被告は、税務調査に全く協力せず、その結果、課税庁をして原告の所得実額についての調査をほとんど不可能ならしめたこと、本訴においても原告の実額反証が一応の主張を終えた時点では反面調査が著しく困難となっていたことから、原告の実額反証は許されるべきでないと主張する。しかしながら、被告のした本件課税処分の適否が争われている本訴においては、その課税処分の実体面での適否は、右処分における原告の所得の額の点に関する被告の認定、判断が所得税法の規定による真実の所得金額との対比において正しいものであるか否かという観点から判断されるべきであり、しかも、所得税法及び国税通則法(昭和五九年法律第五号による改正前のもの)にも、その判断の資料等についてなんらかの制限があるものと解すべき根拠は存在しない以上、原告の実額による所得の主張・立証が信義に反する等の理由で許されないものと解すべきではない。したがって、この点に関する被告の主張は、採用することができない。

(三)  原告の実額反証について

原告は、本訴について、係争各年分の原告の事業所得の金額は実額で算出することが可能であり、右各事業所得に係る売上金額、仕入金額、経費の額及び事業所得の金額は別表第一一のとおりであると主張するので、以下、判断する。

(1) ガソリンスタンド業に係る売上金額について

ア 昭和五三年分について

a 原告は、昭和五三年分のガソリンスタンド業に係る売上金額について六五五三万一四二五円と主張するところ、その算出根拠について、毎日のレジペーパーや売上伝票から、その日の売上を短冊様の日計票にまとめ、その日計票に基づいて集計した結果である旨主張し、原告本人尋問の結果中にはこれに符号する部分がある。

b しかしながら、右のレジペーパー、売上伝票、日計票、集計した記録帳は、一切本件の証拠として提出されておらず、本件証拠中に右の供述部分の信用性を確認することのできる資料は存在しない。

かえって、成立に争いのない乙第五号証の一、証人松井哲昭の証言により真正に成立したものと認められる甲第六二号証、同証言及び弁論の全趣旨によれば、原告の主張する六五五三万一四二五円は、仙台民主商工会事務局長松井哲昭(以下「松井局長」という。)の行った取りまとめ(甲第六二号証)に基づくものであるが、松井局長は、取りまとめに際し、資料が不足しており、昭和五三年の総売上金額を帳簿書類等に基づいた実額で計算することができなかったので、やむを得ず確定申告の控えの収入金額欄に記載されていた金額を総売上金額として採用したこと、そして、土木工事に係る売上金額を被告において佐々木組に対する反面調査により把握した佐々木組からの土木工事収入一九七万四五七五円と計上し、総売上金額と土木工事に係る売上金額の差額をガソリンスタンド業に係る売上金額としたことが認められる。

c 右認定事実によれは、原告の前記供述部分によって昭和五三年の原告のガソリンスタンド業に係る売上金額を実額で把握することはできないといわなければならず、また、他に原告主張の売上金額が実額であることを認めるに足りる証拠はない。

イ 昭和五四年について

a 原告は、昭和五四年分のガソリンスタンド業に係る売上金額について八九一一万七〇九四円と主張するところ、その算出根拠について、毎日のレジペーパーや売上伝票から、その日の売上を短冊様の日計票にまとめ、その日計票に基づいて売上・原価記録帳(甲第七一号証)を作成して集計した結果である旨主張し、甲第七一号証にはこれに沿う記載があり、また、原告本人尋問の結果中にはこれをに沿う部分がある。

b しかしながら、前掲甲第六二号証、成立に争いのない乙第五号証の二、証人松井哲昭の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告の昭和五四年分の確定申告における事業所得の額は九九七四万一〇〇〇円であるところ、原告は、第一四回口頭弁論においては、そのうちガソリンスタンド業に係る売上金額は八八〇六万七七九〇円と主張していたこと、原告の右主張額は、松井局長の行った取りまとめ(甲第六二号証)に基づくものであるが、松井局長は、とりまとめに際し、資料が不足しており、昭和五四年の総売上金額を帳簿書類等に基づいた実額で計算することができなかったので、やむを得ず確定申告の控えの収入金額欄に記載されていた金額を総売上金額として採用したこと、そして、土木工事に係る売上金額を一一六七万三二一〇円と計上し、総売上金額と土木工事に係る売上金額の差額をガソリンスタンド業に係る売上金額としたことが認められる。右事実によれば、松井局長は係争各年の原告の事業所得をとりまとめるに際して甲第七一号証を参照していないのであるが、同号証は、昭和五四年のガソリンスタンド業に係る売上金額について原告から提出されているほぼ唯一の書証であることに照らすと、仮に同号証がとりまとめ当時に存在していたのであれば、松井局長がこれを参照しなかったことは極めて不自然といわざるを得ず、松井局長によるとりまとめ当時における同号証の存在及びその記載の信用性を直ちに認めることはできない。

c また、右事実によれば、原告も、昭和五四年の確定申告における事業所得の額の算出に際し、ガソリンスタンド業に係る売上金額について八八〇六万七七九〇円程度の金額を前提としたものと推認されるところか、右金額甲第七一号証に記載された金額の間に一〇四万九三〇四円の差額が生じた原因について、原告は、甲第七一号証は自家消費分を含んだ金額である旨供述するものの、確定申告に際し、自家消費分を除外することなった理由及びその算出根拠について何ら具体的な供述をしていない。さらに、証人松井哲昭の証言によれば、原告主張額を取りまとめた松井局長も、甲第七一号証の売上金額の中に時価消費額が含まれているのかどうかを確認しておらず、金額の不一致の原因についても把握していないことが認められる。右事実に照らせば、確定申告時における同号証の存在及びその記載の信用性を直ちに認めることはできない。

d そして、原告は、甲第七一号証は、原告が毎日のレジペーパーや売上伝票な基づいてその日の売上を現金売上分、掛売り分の各売上金額を集計した短冊様の日計票にまとめ、さらにその日計票に基づいて作成したものである旨主張するが、そうであれば、同号証は原告による集計計算の結果に依存した二次的な資料であるにすぎないから、右のレジペーパーや売上伝票、日計票等の原始資料との照合を経なければ、直にその記載の信用性を認めることはできないというべきところ、昭和五四年分の右各原始資料はいずれも証拠として提出されていない。

e 右認定事実によれば、甲第七一号証の記載に基づいて昭和五四年の原告のガソリンスタンド業に係る売上金額の実額を認定することはできないといわなければならず、また、他に原告主張の売上金額が実額であることを認めるに足りる証拠はない。

ウ 昭和五五年分について

a 原告は、昭和五五年分のガソリンスタンド業に係る売上金額について九六九三万〇六八一円と主張するところ、その算出根拠について、毎日レジペーパーや売上伝票から、その日の売上を短冊様の日計票にまとめ、その日計票に基づいて売上・原価記録帳(甲第七二号証)を作成し、そして確定申告の前に短冊様の日計票や領収書をもとに総売上記録帳(甲第七三号証)を作成したが、原告の主張する売上金額は右総売上記録帳に基づいて算出した九四六九万九八九二円に自家消費分二二三万〇七八九円を加えたものである旨主張し、甲第六三号証の一、二、甲第七二及び第七三号証にはこれに沿う記載があり、また、原告本人尋問の結果中にもこれを沿う部分がある。

b しかしながら、前掲甲第六二号証、成立に争いのない乙第五号証の三、証人松井哲昭の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告の昭和五五年分の確定申告における事業収入の額は一億一一七二万二三三一円であるところ、原告は、第一四回口頭弁論においては、そのうちガソリンスタンド業に係る売上金額は九六九五万四七八六円と主張していたこと、原告の右主張額は、松井局長の行った取りまとめ(甲第六二号証)に基づくものであるが、松井局長は、取りまとめに際し、甲第七二及び第七三号証を参照したが、なお、資料が不足しており、昭和五五年の総売上金額を帳簿書類等に基づいた実額で計算することができないと判断し、やむを得ず確定申告の控えの収入金額欄に記載されていた金額を総売上金額として採用したこと、そして、土木工事に係る売上金額を一四七六万七四五四円と計上し、総売上金額と土木工事に係る売上金額の差額をガソリンスタンド業に係る売上金額としたことが認められる。

c 前掲第七三号証及び原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第七二号証によれば、甲第七二号証は、昭和五五年一月から同年七月一七日までの記録であり、年間を通して継続して記録された帳簿ではないこと、甲第七二号証の月別売上合計額と甲第七三号証(二ページ)に記載されている月別売上合計額が一致していないことが認められ、右事実に照らせば、甲第七三号証は、甲第七二号証に基づいて作成されたものではないことが明らかであり、甲第七二号証をもって、甲第七三号証の記載の信用性が裏付けられるとすることはできない。

なるほど、甲第七二号証の月別売上合計額と甲第七三号証に記載されている月別売上合計額とは近似していることができるが、そもそも甲第七二号証自体、毎日のレジペーパーや売上伝票からその日の売上金額を集計した短冊様の日計票に基づいて作成したものであるというのであり、そうすれば、原告による集計計算の結果に依存した二次的な資料であるにすぎないから、右のレジペーパーや売上伝票、日計票等の原始資料との照合を経なければ、直ちにその記載の信用性を認めることはできないものであるし、甲第七二号証と甲第七三号証の月別売上合計額の記載が近似するというだけで、甲第七三号証の記載が正確であるということになるものでもないことは明らかである。

d 原告は、甲第七三号証は、原告が毎日のレジペーパーや売上伝票に基づいてその日の売上を現金売上分、掛売り分の各売上金額を集計した短冊様の日計票にまとめ、さらに、確定申告前にその日計票や領収書に基づいて一年分をまとめて作成したものである旨主張するが、そうであれば、原告による集計計算の結果に依存した二次的な資料であるにすぎないから、右レジペーパーや売上伝票、日計票等の原始資料との照合を経なければ、直にその記載の信用性を認めることはできないというべきところ、昭和五五年分の右各原始資料はいずれも証拠として提出されていない。

のみならず、甲第七三号証の月別売上合計額(二ページ)と油の種類別の月別売上合計額(三ページから六ページ)とは一致していないが、その理由は明確でなく、また、甲第七三号証(二一ページ)に記載されているガソリン類の自家消費の金額一二六万九八一九円も原告の確定申告資料(甲第六三号証の一)に記載された金額二二三万七八九円と一致していない。

さらに、甲第七二号証の月別売上合計額と甲第七三号証に記載されている月別売上合計額が一致していない理由について、原告は、本人尋問において、日計票から転記する際にいずれかが間違えたものと思う旨供述している。

e 原告は、自家消費分は二二三万七八九円であると主張し、甲第六三号証の一、第六五号証中にはこれに沿う記載があり、甲第六六号証にはその月別の内訳についての記載があるが、右月別の金額の記載については、誰がいついかなる資料に基づいて集計記載したものであるかを明らかにすべき証拠はなく、本件証拠中に右各号証の記載の信用性を確認することができる資料は存在しない。

f 右の認定事実によれば、右甲第七三号証に基づいて昭和五五年のガソリンスタンド業に係る売上金額の実額を認定することは到底できず、他に原告主張の売上金額が実額であることを認めるに足りる証拠はない。

g さらに、弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和五五年五月に三三万一九〇〇円で取得したコーラ等の自動販売機に係る減価償却費を昭和五五年の事業所得において必要経費として主張し、また右コーラ等の仕入れについても同年の事業所得において必要経費として主張しているが、この自動販売機から当然生ずると認められる収入については、ガソリンスタンド業に係る売上金額に計上していないことが認められ、この点からしても、原告主張の売上金額以外の売上が存在することが明らかであり、右売上金額が実額との原告の主張は失当である。

(2) 土木工事業に係る売上金額について

ア 昭和五三年分について

a 原告は、昭和五三年分の土木工事業に係る売上金額について、同年三月以降の佐々木組に対する売上一九七万四五七五円だけであり、佐々木組以外からの収入は存在しないと主張し、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分がある。

b しかしながら、弁論の全趣旨によれば、右主張は、被告において佐々木組に対する反面調査によって把握し得た限りの金額の主張をそのまま認めたにすぎず、原告において作成レジペーパー、売上伝票、日計票、請求書、領収書又は集計した記録帳は、一切本件の証拠として提出されていない。

c また、原告は、昭和五三年中には、ブルドーザー二台(それぞれ、昭和五〇年一一月に五五四万円、昭和五二年二月に三九〇万円で取得)及び運搬台車(昭和五二年一二月に三〇〇万円で取得)を所有していたと主張するのであるが、そうであるとすれば、一二四四万円もの大金を投じて右三台の土木工事用機械を取得していたことになるにもかかわらず、昭和五三年分の土木工事業に係る売上が一九七万四五七五円だけであったということは不自然といわざるを得ない。

d 原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五九号証によれば、原告は、戸田工務店に対し、昭和五三年七月二四日から同年一二月九日までの間、ユンボ及びブルドーザーを運搬したとして台車代金一一万四〇〇〇円を請求していることが認められ(なお、原告は右売上を昭和五四年の土木工事業に係る売上金額に計上している。)、昭和五三年中に佐々木組以外の工事も存在することに照らせば、前記原告の供述部分は採用することができない。

e 右の認定事実及びウにおいて認定のとおり佐々木組に対する売上として被告において佐々木組に対する反面調査によって把握し得た金額には漏れがあることによれば、昭和五三年分の土木工事業に係る売上金額が少なくとも佐々木組に対する売上一九七万四五七五円及び戸田工務店に対する売上一一万四〇〇〇円の合計二〇八万八五七五円であることがあきらかであるが、前記原告本人の供述部分をもって右金額が実額であると認めることはできず、また、他にこれを認めるに足りる証拠もない。

イ 昭和五四年分について

a 原告は、昭和五四年分の土木工事業に係る売上金額について、佐々木組に対する売上一一二六万一二一〇円及び佐々木組以外の者に対する売上四一万二〇〇〇円の合計一一六七万三二一〇円と主張し、甲第一号証の一ないし八、甲第五九号証の三、原告本尋問の結果中にはこれに沿う部分がある。

b しかしながら、弁論の全趣旨によれば、佐々木組に対する売上金額についての原告の主張は、被告において佐々木組に対する反面調査によって把握し得た限りの金額の主張をそのまま認めたにすぎないことが明らかであり、佐々木組に対する売上に関し、原告において作成した売上伝票、日計票、領収書又は集計した記録帳は、一切本件の証拠として提出されていない。また、佐々木組に対する請求書(甲第七四号証)の提出はあるものの、佐々木に対する売上金額についての原告の主張の一部であるにすぎず、これをもって、原告の主張する売上金額が佐々木組に対する売上のすべてであることが裏付けられるということはできない。

c また、原告は、佐々木以外の者に対する売上については、原告の作成した請求書控え(甲第一号証の一ないし八、甲第五九号証の三)を証拠として提出するが、通常の場合、請求書控えは、得意先又は月別に一冊に編綴されているものであるにもかかわらず、右各号証は一枚ずつ分離されたものであること、右のような請求書は、その綴りが連番式であるはずのところ、右各号証にしは同一日付でも番号のあるものとないものとがあることからすれば、右各号証が佐々木組以外の者に対する売上のすべてであると直に認めることはできない。

d 右の認定事実及びウにおいて認定のとおり佐々木組に対する売上金額として被告において佐々木組に対する反面調査によつて把握し得た金額には漏れがあることによれば、昭和五四年分の土木工事業に係る売上金額に係る金額が少なくとも一一五五万九二一〇円(戸田工務店に対する売上一一万四〇〇〇円は昭和五三年の土木工事業に係る売上金額に計上すべきであるため控除。)であることは明らかであるが、a掲記の各証拠をもって右金額が実額であると認めることはできず、また、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

ウ 昭和五五年分について

a 原告は、昭五五年分の土木工事業に係る金額について、佐々木組に対する売上一一五五万九四三五円及び佐々木組以外の者に対する売上三二〇万八一一〇円の合計一四七六万七五四五円と主張し、甲第五四号証の二、甲第六四号証、乙第三五号証の一、乙第三六号証の一にはこれに沿う記載があり、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分がある。

b しかしながら、弁論の全趣旨によれば、佐々木組に対する売上金額の主張は、被告において佐々木組に対する反面調査によって把握し得た限りの金額の主張をそのまま認めたにすぎず、佐々木に対する売上に関し、原告において作成した売上伝票、日計票、領収書又は集計した記録帳は、一切本件の証拠として提出されていない。また、佐々木組に対する請求書(甲第七四号証)の提出はあるものの、佐々木に対する売上金額についての原告の主張の一部であるにすぎず、これをもって、原告の主張する売上金額が佐々木組に対する売上のすべてであることが裏付けられるということはできない。

c かえって、前掲乙第五号証の三、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第六三号証の一、二、甲第六四号証、右本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨によれば、昭和五五年の確定申告においては、原告は、土木工事業に係る売上金額を一四七九万一六五〇円と計上して事業収入の額を一億一一七二万二三三一円と申告していたこと、右売上金額と原告が本訴において主張する土木工事業に係る売上金額との差異が生じる理由は、確定申告時には、原告は土木工事業に係る売上金額の中に佐々木組に対する売上金額として一二二八万三五四〇円を計上していた一方、大振建設に対する売上である七〇万円を計上していなかったことにあることが認められるところ、佐々木組に対する売上金額について、確定申告時の一二二八万三五四〇円と原告が本訴において主張する一一五五万九四三五円との差異が生じた理由についてなんら合理的な説明はされていない。

加えて、原告は、平沢設備、三浦勇記、川名建材、こだま建材及び高橋某に対する売上金額が一〇一万五一一〇円であることの証拠として、前掲甲第六四号証を提出するのであるが、同号証中の佐々木に対する売上金額が一二二八万三五四〇円である旨の記載部分についてはその信用性を否定しており、その主張には甚だ一環しないものがあるといわざるを得ない。

d さらに、前掲乙第三号証によれば、原告は、有限会社陸前建設に対し同年一二月三一日付け請求書において、重機分の代金として五〇万円一〇〇〇円を請求しており、原告が主張する工事収入以外の収入が存在することが認められる。

e 右の認定事実によれば、佐々木組に対する売上金額として被告において佐々木組に対する反面調査によって把握し得た金額には漏れがあること、昭和五五年分の土木工事業に係る売上金額は少なくとも佐々木組に対する売上一二二八万三五四〇円、佐々木組以外の者に対する売上三二〇万八一一〇円及び有限会社陸前建設に対する売上五〇万一〇〇〇円の合計一五九九万二六五〇円であることを認めることができ、右a掲記の各証拠によって原告主張の売上金額が実額であると認めることはできず、また、他にこれを認めるに足りる証拠もない。

(3) 仕入金額及び経費の額並びに事業所得の金額について

原告主張の係争各年の売上金額がその実額であることを認めるに足りる証拠がないことは、右(1)(2)判示のとおりである。

ところで、事業所得の金額は、一般に売上金額から仕入金額及び経費の額等を控除することによって算出されるものであり、原告の実額主張も、売上金額、仕入金額及び経費の額をそれぞれ把握し得ることを前提として、右の計算の方法に従ったものであるから、そのうちの売上金額の実額を立証することができないとすれば、仮に、仕入金額及び経費の額の実額を立証することができたとしても、事業所得の金額の実額を算出するに由ないものであることは明らかである。

したがって、仕入金額及び経費について、原告主張の実額を認定することができるか否かを判断するまでもなく、係争各年の事業所得に関する原告の実額主張は失当である。

(四)  推計の合理性について

被告が本訴において主張する係争各年の原告の事業所得の金額は、ガソリンスタンド業については、仕入取引先の調査により売上原価を把握し、これを基礎に、同業者の売上原価率の平均値を適用して売上金額を推計し、更に同業者の算出所得率の平均値により算出所得金額を推計したものであり、土木工事業については、昭和五五年分の雇人費から昭和五三年及び昭和五四年分の雇人費を推計し、これを基礎に、同業者の雇人費率の平均値を適用して売上金額を推計し、更に同業者の算出所得率の平均値により算出所得金額を推計したものであり、いわゆる同業者率を用いた推計に係るものであるので、以下、右の推計の合理性の有無を検討する。

(1) 同業者の選定について

ア 証人相馬正明の証言により真正に成立したものと認められる乙第二七号証及び第二九号証の各一ないし四、並びに同証言によれば、仙台国税局長は、昭和五九年六月一四日付で、古川税務署長に対し、「税務訴訟に関する資料について」と題する通達を発し、古川税務署管内でガソリンスタンド業を営む個人の事業者のうちから、係争各年分について、<1>所得税の申告書を青色申告によっている者、<2>国税通則法の規定に基づく不服申立てがされ現在審理中の者又は訴訟係属中の者以外の者、<3>売上原価の額が原告の売上原価の額の半分ないし二倍の範囲内にある者、<4>年を通じて事業を継続して営んでいる者で、災害等により経営状態が異常でない者、以上の各条件のすべてに該当する者全員(各条件に昭和五三年分ないし昭和五五年分の三年分連続該当する者のみならず、そのいずれかの年分のみに該当する場合であっても、その該当する年分について作成する。土木工事事業についても同じ。)、古川税務署管内で土木工事業のうち主として農業関係土木(暗渠・排水等)工事を営む個人の事業者のうちから、係争各年分について、<1>所得税の申告を青色申告によっている者、<2>国税通則法の規定に基づく不服申立てがされ現在審理中の者又は訴訟係属中の者以外の者、<3>雇人費の額が原告の昭和五五年分の雇人費の額の半分ないし二倍の範囲内にある者、<4>年を通じて事業を継続して営んでいる者で、災害等により経営状態が異常でない者、異常の各条件のすべてに該当する者全員の各課税事績の報告を求め、古川税務署長は、これを受けて、仙台国税局長に対し、右基準に基づき、その該当者として、ガソリンスタンド業については、係争各年分につき四名を、土木工事業については、昭和五三年につき三名、昭和五四年及び昭和五五年分につき各六名を、それぞれ同業者としてその課税事績を報告したことが認められる。

イ 係争各年分についてのガソリンスタンド業についての同業者の課税事績は、別票第三の一ないし三記載のとおりであり、これに基づいて、売上原価率及び算出所得率を算出し、これを平均して平均売上原価率及び平均算出所得率を算出すると、同表記載のとおり、平均売上原価率については、昭和五三年分は八五・六二パーセント、昭和五四年分は八三・七七パーセント、昭和五五年分は八五・九五パーセントとなり、平均算出所得率については、昭和五三年分は四・五九パーセント、昭和五四年分は七・五〇パーセント、昭和五五年分は五・七一パーセントになることが認められる。

また、係争各年分についての土木工事業についての同業者の課税事績は、別票第七の一ないし三記載のとおりであり、これに基づいて、雇人率及び算出所得率を算出し、これを平均して平均雇人費率及び平均算出所得率を算出すると、同表記載のとおり、平均雇人費率については、昭和五三年分は三四・四一パーセント、昭和五四年分は二八・七六パーセント、昭和五五年分は二八・一五パーセントとなり、平均算出所得率については、昭和五三年分は一一・四〇パーセント、昭和五四年分は九・五八パーセント、昭和五五年分は一〇・七八パーセントになることが認められる。

ウ 右の認定事実によれば、原告の売上金額及び算出所得金額を算出する目的で被告が選定した同業者の選定基準は、業種の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性等において、同業者の類似性を判別する要件として合理的なものであって、右同業者の選定に当たって被告の恣意が介在する余地も認められず、また、右各同業者は、いずれも年間を通じて事業を継続する青色申告者であって、その申告が確定していることに照らすと、その仕入金額等の算出根拠となる資料の正確性も担保されるものというべきである。

そして、選定された同業者の数は、ガソリンスタンド業については、係争各年分とも各四名であり、土木工事業については、昭和五四年分及び昭和五五年分とも各六名であり、そのいずれも同業者の個別性を平均化するに足りる選定件数である解され、土木工事業の昭和五三年分については三名ではあるが、その同業者が前記のとおり類似性を認められ、かつ、その同業者の提供する資料が正確なものであり、同一地区に他に適切な同業者がいないのであるから、右三名の同業者との対比によって推計することにも合理性が認められるというべきである。

エ ところで、被告は、土木工事業の同業者の抽出に当たり、昭和五三年分及び昭和五四年分についても昭和五五年分の雇人費の額で倍半基準を設定したものであるが、証人相馬正明の証言によれば、昭和五三年分の雇人費の額が実額で把握できなかったために、同年分についても実額が判明した昭和五五年分の雇人費の額に基づいた倍半基準によったものであることが認められ、右事実及び被告が推計した昭和五三年分の雇人費の額のような規模の同業者が抽出される可能性は低いことに照らせば、昭和五五年分の雇人費の額で倍半基準を設定したことにも合理性が認められるというべきである。

オ また、原告は、原処分の選定した同業者と国税不服審判所において選定した同業者と本訴において選定された同業者の間に変更があることから、被告が同業者を恣意的に選定したとの疑念がある旨主張するが、同業者の抽出に当たり恣意が介在する余地は全くないことは右認定のとおりであるし、原処分庁と国税不服審判所と本訴において同業者に相違が生じたのはその選定基準の相違に基づくものであることは容易に推察し得るところであるから、原告の右主張は失当である。

カ 原告は、雇人費率、算出所得率の変更は許されない旨主張するが、課税処分取消訴訟においては、当該処分の違法性の有無は課税標準となった所得金額等が客観的に正当な数額であるか否かによって判断されるべきであり、したがって、課税庁において当該課税処分後に収集した資料をもってその適法性を立証することは妨げられるものではなく、被告が本訴において新たな同業者を選定し、その課税事績に基づいて雇人費率、算出所得率を主張することは当然に許されるというべきである。

(2) いわゆる通達回答方式の可否について

原告は、同業者の住所氏名を秘匿した資料で同業者率の合理性を立証することは、被告主張の同業者の存在並びにその営業規模、内容及び立地条件等原告の営業との類似性について反証を提出することを不可能にするものであり、当事者衡平の見地、訴訟における信義則から許されない旨主張する。

しかしながら、被告が同業者の住所・氏名を開示しない同業者に関する資料によって同業者率を立証することについては、同業者の住所氏名を公表したうえでその収入金額等を明らかにすることが守秘義務によって禁止されていることの結果であるから信義則に反するものとはいえないし、同業者の住所・氏名等を開示しなくとも、同業者の抽出方法の無作為性及びその資料の正確性を明らかにすることにより、かかる資料による推計の合理性を担保することも可能であって、本件において、同業者の抽出に当たり恣意が介在する余地が全くないことは(1)判示のとおりであるし、資料の正確性に欠ける点があるとは認められないから、かかる資料による推計を不合理ということもできない。また、被告が提出した「個人事業経営者の課税事績報告書」には、収入金額、売上原価の額及び算出所得金額等本件推計の合理性を判断するために必要な同業者の営業状況は明らかにされており、原告も反証の手段を全く奪われるわけではないし、原告において通常は保存している帳簿書類又は原始記録の提出若しくはこれに代えて集め得る資料の提出等により実額反証を行うことも可能であるから、同業者の業務内用等の詳細が開示されていないことが原告に対しその訴訟の追行上著しい不利益を与えるものということはできないこと、このような事態を招いた原因は、申告内容が正しいことを帳簿書類等により正確に説明しなかった原告にあること、同業者の氏名、業務内容等の詳細を開示することによって失われるおそれのある当該同業者の利益、及び右開示ないしこれによって同業者が不利益を受けることがさらにもたらすおそれのある税務行政上の不都合を合わせ考えるならば、本件同業者の氏名、業務内容等の詳細の開示がないのもやむを得ないところである。

(3) 土木工事行に係る売上金額の推計について

ア 被告は、昭和五五年分に係る雇人費明細書の写しの提出を受けたのみで、その余の土木事業に係る帳簿書類の提示を受け得なかったことから、反面調査によって佐々木組からの工事収入金額を把握し、その結果、佐々木組からの昭和五三年一月から昭和五五年一二月までの工事収入金額及び昭和五五年分に係る原告の雇人費の月別内訳は、別表第五のとおりであって、昭和五五年分の原告の主たる工事期間(昭和五五年一月から三月まで及び一〇月から一二月までの期間)における雇人費の額の合計が同年の雇人費の総額に占める割合は七八・四四パーセントになるのに対し、同期間における佐々木組からの工事収入金額が同年の佐々木組からの工事収入総金額に占める割合は七八・一九パーセントであって、右の事実から原告の雇人費の額は佐々木組からの工事収入金額の多寡に応じて増減しているものと認められたので、昭和五五年分の工事収入金額に対する同社の昭和五三年分及び昭和五四年分の工事収入金額の割合を求め、次に、昭和五五年分の雇人費の額に右割合を乗じて昭和五三年分及び昭和五四年分の雇人費の額を計算したと主張する。

イ なるほど、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五〇号証の一、証人相馬正明の証言により原本の存在及びその真正な成立が認められる乙第二八号証、同証言により真正に成立したものと認められる乙第四一号証によれば、昭和五五年一月から三月まで及び一〇月から一二月までの期間における雇人費の額の合計は、三九〇万三九六〇円であり、同年雇人費の総額に占める割合は七八・四四パーセントになるのに対し、同期間における佐々木組からの工事収入金額は、九〇三万七九三五円であり、同年の佐々木組からの工事収入金総額に占める割合は七八・一九パーセントであって、両者の数値がほぼ一致することが認められる。

ウ しかしながら、右各号証によれば、同年一月から五月まで及び同年一二月における雇人費の額の合計は三三一万五五五〇円であり、同年の雇人費の総額に占める割合は六六・六一パーセントになるのに対し、同期間における佐々木組からの工事収入金額は一〇九二万五四三五円であり、同年の佐々木組からの工事収入金額に占める割合は九四・五二パーセントとなり、また、同年一月から四月まで、一一月及び一二月における雇人費の額の合計は、三八六万二五七五円であり、同年の雇人費の総額に占める割合は、七七・六パーセントになるのに対し、同期間における佐々木組からの工事収入金額は、一〇三七万七四三五円であり、同年の佐々木組からの工事収入金総額に占める割合は八九・七七パーセントとなり両者の数値には大きな相違が存在することが認められる。

エ そして、右ウの事実に照らせば、イの事実をもって原告の雇人費の額が佐々木組からの工事収入の多寡に応じて増減しているものということはできない。被告は、一月から三月まで及び一〇月から一二月までが原告の主たる工事期間である旨主張するが、仮に一般に農閑期を利用して行われる農業関係土木工事が農繁期である四月から九月まで以外の一月から三月まで及び一〇月から一二月までに行われるものであるとしても、前掲甲第四二号証によれば、昭和五五年における原告の月別工事収入金額を比較して収入金額の多い順に六か月を選定すると、一月から五月及び一二月となることが認められ、右事実に照らせば、一月から三月まで及び一〇月から一二月までが原告の主たる工事期間とすることは困難といわざるを得ない。また、前掲乙第九号証によれば、国税不服審判所の調査において、原告が雇人費の額は佐々木組に係る売上金額の多寡に応じて増減している旨の答述をしていたことが認められるが、ウの事実に照らせば、右答述をもって、原告の雇人費の額が佐々木組からの工事収入金額の多寡に応じて増減しているものということもできない。

オ してみると、昭和五五年分の工事収入金額に対する同社の昭和五三年分及び昭和五四年分の工事収入金額の割合を求め、次に、昭和五五年分の雇人費の額に右割合を乗じて昭和五三年分及び昭和五四年分の雇人費の額を計算したという被告の推計方法に合理性を認めることは困難といわざるを得ない。他方、原告の係争各年分の土木工事行に係る売上金額について、昭和五三年分として少なくとも二〇八万八五七五円、昭和五四年分として少なくとも一一五五万九二一〇円、昭和五五年分として少なくとも一五九九万二六五〇円が存在することが認められることは三2(三)(2)判示のとおりであるから、本件においては、原告の係争各年分の土木工事に係る売上金額は右同額であることを前提として所得金額を推計すべきである。

(4) 特殊事情の有無について

ア 原告は、営業形態における特殊事情が存在する旨主張するが、本件のように同業者の平均値による推計にあたっては、原告の個別的営業条件のいかんは、平均値による推計自体を不合理ならしめるほどに顕著なものでない限り、右平均値の算出過程の裡に捨象されるべきであり、本件において、平均値による推計を不合理ならしめるほどの立地条件、営業形態等の特殊事情については、これを認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張は失当である。

イ また、被告は、人件費、外注工事費、減価償却費については、これを一般経費とともに一括して推計する方法によっているところ、原告は、これらの経費は個別事情によって大きく差異があるのが通例であり、まとめて推計することは妥当性を欠く旨主張する。

しかしながら、一般に人件費、外注工事費、減価償却費は、収入金額と相関関係にあるものということができ、各同業者間の数値に多少の差異が認められたとしても、アのとおり、平均値の算出過程の裡に捨象されるというべきであり、本件において、人件費、外注工事費、減価償却費について平均値による推計を不合理ならしめるほどの特殊事情の存在については、これを認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張は失当である。

(五)  原告の係争各年分の事業所得金額について

そこで、以下、被告の主張する推計方法によって、原告の係争各年分の事業所得金額を算出することとする。

(1) ガソリンスタンド業に係る売上原価の額について

別表第二記載の売上原価のうち、株式会社三陸物産、野口石油株式会社、ヤナセ製油株式会社、株式会社ポニーキャニオン販売(昭和五四年及び昭和五五年分に限る。)、株式会社秋山商店(昭和五四年分に限る。)、トーヨー・ニツトータイヤ宮城共販株式会社(昭和五五年分に限る。)、ブリヂストンタイヤ宮城販売株式会社(昭和五三年及び昭和五四年分に限る。)、品川燃料株式会社、株式会社アベキ、丸庄物産株式会社からの売上原価の金額については当事者間に争いがない。右争いのない事実並びに存在及び成立に争いのない乙第二四号証の一ないし八、証人相馬正明の証言により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証、第一四、第一五号証、第一七、第二一号証及び第二六号証の各一ないし三、乙第一六号証、第一八号証及び第二〇号証の各三、乙第一九号証の一、二、並びに同証言によれば、ガソリンスタンド業に係る売上原価の額は別表第二記載のとおりであることが認められる。

原告は、右売上原価として別表第一一記載の金額を主張し、甲第二号証の一ないし七九、甲第一九号証の一ないし九〇、甲第三六号証の七九中にはこれに沿う記載が存するが、証人松井哲昭の証言によれば、原告の右主張は、右各号証に基づき松井局長がとりまとめたものであるところ、一部に現金主義(支払日基準)で計上した部分もあることが認められるから、右各号証は前記認定を覆すものではない。

また、原告は、三洋電機東北販売株式会社北宮城野営業所からの仕入れに関し、被告主張の各年分の売上原価を取引金額と認めたうえで、その七割は贈答品に使用したので、売上原価としては残りの三割のみを計上すべきである旨主張し、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分があるが、その按分計算について明確な根拠はなく、その按分を裏付ける帳簿書類等の書証も提出されていない以上、原告本人の右供述部分をもって原告の主張を認めることはできないし、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

(2) 売上金額の額について

ア 右(1)認定の係争各年分のガソリンスタンド業に係る売上原価を、それぞれ(四)(1)イ認定の係争各年の平均売上原価率で除して、原告の係争各年分のガソリンスタンド業に係る売上金額を算出すると、昭和五三年分が六六二四万七〇六一円、昭和五四年分が九三〇万三三九六円、昭和五五年分が四四七〇円(いずれも、円未満切捨て)となる。

イ 前記(四)(3)において判示したとおり、本件においては、原告の係争各年分の土木工事業に係る売上金額は、昭和五三年分が二〇八万八五七五円、昭和五四年分が一一五五万九二一〇円、昭和五五年分が一五九九万二六五〇円であることを前提として所得金額を推計すべきである。

(3) 算出所得の金額について

ア 前記(2)アの各売上金額に、それぞれ(四)(1)イ認定の係争各年の平均算出所得率を乗じて、原告の係争各年分のガソリンスタンド業に係る算出所得金額を算出すると、昭和五三年分が三〇四万〇七四〇円、昭和五四年分が六九七万九〇〇四円、昭和五五年分が五五三万〇三九〇円(いずれも円未満切捨て)となる。

イ 前記(2)イ認定の各売上金額に、それぞれ(四)(1)イ認定の係争各年の平均算出所得率を乗じて、原告の係争各年分の土木工事業に係る算出所得金額を算出すると、昭和五三年分が二三万八〇九七円、昭和五四年分が一一〇万七三七二円、昭和五五年分が一七二万四〇〇七円(いずれも円未満切捨て)となる。

(4) 支払利息・割引料及び貸倒金

ア 支払利息・割引料

a 原告が昭和五四年一一月一四日に振興相互銀行田尻支店から借り入れた六六〇万円に係る利子割引料のうち昭和五四年分九万〇四二九円及び昭和五五年五〇万三六六四円、原告が昭和五五年八月一一日に同支店から借り入れた一五〇万円に係る利子割引料四六二二円、原告が同年九月一〇日に同支店から借り入れた三〇〇万円に係る利子割引料六万〇六一四円が、いずれも原告の事業遂行上生じた費用であることは、当事者間に争いがない。

b 原告は、昭和五〇年一二月二五日に振興相互銀行田尻支店から借り入れた住宅ローン六〇〇万円に係る利子割引料を支払利息として主張するところ、原本の存在及び成立に争いのない甲第七七号証によれば、原告主張の借入れの事実を認めることができ、原告本人尋問の結果中には右借入金は事業資金として使用した旨の供述部分が存する。しかしながら、前掲甲第七七号証、成立に争いのない乙第四三号証及び原告本人尋問の結果によれば、右借入金に係る貸付元帳の資金使途欄には居宅新築と記載されていること、原告は同年一〇月一日に自宅を工事代金約六二〇万円で新築していること、右建物には右住宅ローンに基づき振興相互銀行田尻支店のために抵当権が設定され、その旨の登記が経由されていることが認められ、右事実に照らせば、右借入金を事業資金として使用した旨の原告の供述部分は採用することができず、他に右借入利子が事業遂行上生じた費用であると認めるに足りる証拠はない。

c 原告は、昭和五二年五月三一日に振興相互銀行田尻支店から借り入れた四〇〇万円に係る利子割引料を支払利息として主張するところ、原本の存在及び成立に争いのない甲第七八号証によれば、原告が右主張の借入れを行い、借入金利子として昭和五三年分として一九一万一七一九円、昭和五四年分として九万〇二八三円及び昭和五五年分として一万〇三八三円を支払っていること及び右借入金に係る貸付元帳の資金使途欄にはガソリン支払、自動車部品代と記載されていることが認められ、右事実に照らせば、右借入金はガソリン代及び自動車部品代の支払として使用されたことを推認することができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。したがって、右借入金利子のうち昭和五三年分一九万一七一九円、昭和五四年分九万〇二八三円及び昭和五五年分一万〇三八三円は、いずれも事業遂行上生じた費用というべきである。

d 原告が主張する余の利子割引料については、それが事業遂行上生じた費用であることを認めるに足りる証拠がない。

e 右認定判示したところに基づき原告の係争各年分の支払利息・割引料を求めると、昭和五三年分が一九万一七一九円、昭和五四年分が一八万〇七一二円、昭和五五年分が五七万九二八三円となる。

イ 貸倒金

a 戸田工務店に対する債権一八二万三四一円が昭和五五年分の貸倒金となることは、当事者間に争いがない。

b 原告は、昭和五五年分の貸倒金として佐藤防災に対する債権一〇万円を主張するが、右債権の存在及び当該債権が貸倒金となることを認めるに足りる証拠はない。

(5) 事業専従者控除額

係争各年分において原告の妻幸子が所得税法五七条三甲に規定する事業専従者に該当することは、当事者間に争いがないから、原告の事業専従者控除額はいずれも四〇万円となる。

(6) 事業所得の金額について

以上に基づき、原告の係争各年分の事業所得金額を算出すると、別表第一二記載のとおり、昭和五三年分が二六八万七一一八円、昭和五四年分が七五〇万五六六四円、昭和五五年分が四四七三円となる。

3  本件各更正の違法について

前掲乙第六号証の一ないし三及び成立に争いのない乙第九号証によれば、本件各更正に係る係争各年分の原告の総所得金額は、昭和五三年分が二六五万一六〇五円、昭和五四年分が六七九万九三一四円、昭和五五年分が四二四万二七三四円であることが認められる。

そうすると、本件各更正に係る係争各年分の原告の総所得金額は、原告の係争各年分事業所得の金額の範囲内であって、これを上回るものではないから、本件各更正はいずれも適法というべきである。

四  本件各賦課決定の違法について

1  五三年分賦課決定

五三年更正により原告が納付すべき税額は二二万一六〇〇円であるから、昭和五九年法律第五号による改正前の国税通則法六五条一項により、右税額から確定申告により納付すべき税額四万四六〇〇円を控除した金額に一〇〇分の五を乗じて算出した八八〇〇円(右改正前の同法一一九条四項により一〇〇円未満切捨て)の過少申告加算税を賦課した五三年分賦課決定は適法である。

2  五四年分賦課決定

五四年更正により原告が納付すべき税額は一一八万四七〇〇円であるから、昭和五九年法律第五号による改正前の国税通則法六五条一項により、右税額から確定申告により納付すべき税額四万七〇〇〇円を控除した金額に一〇〇分の五を乗じて算出した五万六八〇〇円(右改正前の同法一一九条四項により一〇〇円未満切捨て)の過少申告加算税を賦課した五四年分賦課決定は適法である。

3  五五年分賦課決定

五五年分更正により原告が納付すべき税額は四八万九九〇〇円であるから、昭和五九年法律第五号により改正前の国税通則法六五条一項により、右税額から確定申告により納付すべき税額五万一八〇〇円を控除した金額に一〇〇分の五を乗じて算出した二万一九〇〇円(右改正前の同法一一九条四項により一〇〇円未満切捨て)の過少申告加算税を賦課した五五年分賦課決定は適法である。

五  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 六車明 裁判官 鹿子木康)

別表第一

一 昭和五三年分

<省略>

二 昭和五四年分

<省略>

三 昭和五五年分

<省略>

別表第二

<省略>

<省略>

別表第三

一 昭和五三年分

<省略>

二 昭和五四年分

<省略>

三 昭和五五年分

<省略>

別表第四

<省略>

別表第五

<省略>

別表第六

<省略>

別表第七

一 昭和五三年分

<省略>

二 昭和五四年分

<省略>

三 昭和五五年分

<省略>

別表第八

<省略>

別表第九

<省略>

別表第一〇

<省略>

別表第一一

<省略>

別表第一二

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例